最終章 You Only Live Twice 26
テトリアの鎧が消失したときと異なるのは、突如発生した靄と視界を完全に遮るような事象である。
似て非なるものだと思えた。
これまでの経緯から、テトリアにそのような器用な真似ができるとも思えない。
ビルシュが生きていないことは確認している。
しかし、普通の人間と同じように区別していいのかもわからない。
答えの出ない思考を繰り返していることは理解していた。
教会本部内の通路を走りながら冷静になるよう努める。
テトリアの仕業ではないと仮定しよう。
ならば今回の事態は何者が仕組んだのか。
答えはひとつしかない。
ビルシュだった何かだ。
確証は何もなかった。
しかし相手が神格に近い存在なら、俺以上の能力を有しているのは当然だろう。
しかも武芸者の類ではない。
聖属性魔法に長けたハーフエルフ。それが偽りの姿だとすると、様々な属性魔法や神威術などを使う古代エルフである可能性があった。
一方でそれを否定する思いもある。
ルシファーの存在だ。
奴がこちらの思いもよらない目的のために、今回のことに関与している可能性は捨てきれない。
だが···やはり答えは出なかった。
可能性はあくまで可能性だ。
どれだけ思考を巡らせても確証のないものに結論は出ない。
今の内容を二軸として頭の片隅に置いておくことにする。
新たな情報が入るか、状況が変化したときに繋げていけばいい。
大司教かクレアのところに向かうことにする。
この時間ならふたりは就寝しているだろう。
教会とて居住する建物は男女に別れて配置されている。
まずは余計な騒ぎにならないように大司教の部屋を訪問することにした。さすがに男人禁制の聖女の居室に向かうのは、別の騒動に発展する可能性がある。
現在地と聖職者の居住区は別の建物だ。
俺は進路を変えてそちらに急行することにした。
周囲の気配を探ることは忘れない。
何かを見落とさないよう慎重に動きながら、可能な限りの速度で目的地へと向かう。
不幸中の幸いか、教会本部内で殺傷沙汰には至っていない。
ここでクレアなどを人質に取られたり、ここに詰めている人々が脅威にさらされていないだけマシだろう。
しかし、なぜそれが起きないかも疑問として残った。




