最終章 You Only Live Twice 24
ビルシュが安置された部屋で俺は様子をうかがっていた。
時間はもう深夜である。
テトリアが現れる可能性は五分五分だと思っていたが、憑依する肉体としてはそれなりに魅力があるはずだった。
公称では数百年を生きたハーフエルフは、高い魔力適性を備えている。さらにルシファーが語っていたことが事実だとすると、ビルシュは古代エルフとしてもっと高い性能を備えた体を持っているはずだった。
剣術などに適しているかといわれれば難しいところだが、下手をすると悪魔王を凌駕する能力を有しているかもしれないのだ。
身動ぎ一つしないビルシュを見つめる。
なぜ襲撃の際にテトリアの気配を感じなかったのか。
そして、ビルシュの命を奪ったにも関わらず、なぜ遺体を放置して行ったのか。
俺の中では、犯人はテトリアではないという気持ちが強い。
では誰がビルシュを葬ったのかというところで答えは見い出せなかった。
ビルシュが襲撃されたことで、整理した頭の中が再び混乱に陥ってしまったのだ。
このタイミングでルシファーが何かしたとは思えない。そんなことをする理由が見当たらないのである。
そうなると、やはりテトリアが犯人だと思うのが自然だ。
これまでビルシュにいい様に使われてきた奴が、下克上を起こしたと考えるとそこまで不自然ではない。
ただ、それはビルシュがアザゼルの血を引いていることが大前提での話だ。
それすらも結論づけるには材料が少なすぎた。
ここが強襲されるという確証もない。
納棺の義や葬儀ミサの場で行動した方が目立つに違いないのである。しかし、テトリアが単独でそのような行為に及ぶ意味も、また見出すことができないのであった。
もうひとつ考えられるのは、ビルシュは実は死んでいないのではないかということである。簡単にいえば、これは自作自演なのではないかということだ。
だが、そうだとすると目的は何だろうか。
アトレイク教の代表が凶行により倒れた。
これを公表すれば、同情と悲哀が集まり信者はより深く祈りを捧げるかもしれない。それによってアトレイクへの信仰は高まる。
では、ビルシュが自らの命を絶つという行為についてはどうだろうか。
俺がルシファーと邂逅したことにより、疑いの眼差しがビルシュに迫ったことへのまやかし。単純だが、それが一番しっくりとくる気がした。




