最終章 You Only Live Twice 21
ちょっとした揺さぶりだが、何らかの動きを見せるのではないかと期待した。
しかし、それが大きなうねりになるとは想定外だった。
スレイヤーギルドへは戻らず、わざわざシニタで宿をとって待機する。
教会本部にほど近く、窓から様子をうかがえる部屋でじっと観察していたのだ。
ビルシュが俺の所在をたぐれるなら、不審を抱いていることを見抜くだろう。そうでなければ次の手に移行するのではないかと思っている。向こうもしばらくは何もせずに様子を見るといった可能性もあるが、それならば連日訪れてやるのもいいだろう。
宵闇が迫った時間にそれは起きた。
教会本部の建物がにわかに騒然としたのを感じ、俺はすぐにそちらへと駆け込んだ。
通路に溢れかえる聖職者をかわし、教皇の執務室へと向かう。
目的の部屋の前には教会の要職たちが殺到していたため、声を張り上げて半ば強引に押しのけ入室した。
「天剣様!?」
執務室にはクレアやクリスティーヌ、それに大司教が顔を揃えており、執務机の奥に向かってクレアが治癒を施している様子だった。
「何があった?」
真っ先に声をかけてきた大司教に問う。
「それが···教皇猊下が何者かに襲われたようで···。」
「息はあるのか?」
そう問いかけるも、大司教は首を左右に振る。
「クレア様が治癒を施していますが、すでにこと切れてから時間が経過しており···助かる見込みは···。」
ここでビルシュが襲われるなど想定外にもほどがあった。
「襲撃者は?」
「いえ、目撃者はおりません。それにご存知かと思いますが、この扉の前には聖騎士が四六時中詰めております。窓も誰からも気づかれずに入ってこれるような場所ではございませんので、皆目検討がつかないのです。」
確かに聖騎士はいつも教皇の執務室前に二名体制で待機していた。それに建物の構造上、外からの侵入は空でも飛べない限り無理だろう。
「外傷はあるのか?」
血の匂いはしなかった。
「いえ、それが外傷は一切なく···。」
「襲撃されたというのはなぜわかったんだ?」
「衛兵が倒れている猊下を発見する直前に、言い争う声と物音が聞こえたようです。」
「何を言っていたかはわかるか?」
「それが···テトリアの名を呼ぶ猊下の声しかわからなかったと···。」
どういった経緯か詳しくわからなかったが、ビルシュはテトリアに襲われ倒れたということらしかった。




