最終章 You Only Live Twice 17
クリスの所を出た後、あることに気がついた。
今のクリスはビルシュが用意した研究室とスレイヤーギルドの近くにある拠点とを使い分けている。
研究や開発内容によって使う設備や依頼する職人が異なるため、それぞれで違う分野のことに対処しているのだ。
もちろん、彼は転移術など使えない。
可能な場合は俺やマルガレーテが移動に手を貸しているわけだが、多くの場合は頭脳労働するのにちょうどいいと言って時間の許す限り精霊馬車を利用していた。
精霊馬車はもともと教会で用意されているもので、関係者が使わない場合に利用するのだという。
こういった状況を考えると、ビルシュがいるシニタ内ではルシファーに思考を乗っ取られるはずがないのである。
ルシファーはアトレイク側の近くにいればすぐに正体が露見すると言っていた。
ビルシュが想像通りの人物だとすると、クリスがこちらにいる限りルシファーは近づかないだろう。
要するに、シニタにいるクリスは素のままなのだ。
それならば、今日交わした意見は率直な彼の考えだと断定できる。意識操作の可能性は極めて低いだろう。
それと、ルシファーが近づけないのは神アトレイクではなく、アザゼルの血を継ぐビルシュということになのだろうか。
アザゼルも元神だとすると、似たような境遇の者同士で互いを感知できることは十分に考えられる。
しかし、ルシファーからアザゼルの名前が出なかったのはなぜなのか。
それも話せる内容ではないということだろうか。
いや、シンプルに考えよう。
ビルシュと戦うことになった場合、対処できないのであればルシファーがわざわざ俺の前に姿を現す必要はなかっただろう。
その力を持たせるために誘なったと考える方が理解しやすい。
となると、今の俺にはビルシュと戦える力があるということだ。
では、一番の問題となる点についてはどうか。
これについては判断が難しかった。
アトレイクとルシファーのどちらが正しいかについては決めかねている。
ただ、客観的に考えた場合、言動や行動に矛盾点があるのはビルシュの方だった。
しかし、直接的に聞いたところで肯定はしないだろう。
ではそれを調べるために行動するのか?
いや、何を調べればいいかもはっきりとしなかった。
相手が普通の人間であればやりようもあるのだが、誰の目にもとまらず文字通り暗躍していたなら手繰る術はない。
待ちに徹して叙爵式の日を迎えるべきか···。
思考は同じところで停滞するだけだった。




