最終章 You Only Live Twice 13
「不思議なことを言うね。」
クリスはそう言って自然な笑みを見せた。
ルシファーの言葉にあったことを思い出す。確か、「この男の意識に入り込み···」と言っていたのだ。
「いや、すまない。忘れてくれ。」
本人は気づいていないのかもしれない。
それに、もしルシファーという存在が自分の意識の中に入り込んでいたことを知っていたとしても、自らそう語ることはしないだろう。
そう思った。
「私は私だよ。ただ、何度か興味深い存在が入り込んでいたようだがね。」
クリスがにやっとした笑みを見せた。
「知っていたのか?」
「無意識下の記憶というものは残るのだよ。例えば、乳幼児は大人とは違う記憶方法を使う。これは無意識的記憶といい、触れた物や味わった物を脳に焼きつけるように残す。また、非陳述記憶というものもあり、一度形成されると···。」
「悪いが、わかるように簡潔に説明してくれないか。」
いつも通りのクリスだった。
ある意味ほっとするが、説明が専門的過ぎて理解し難い。この男は脳科学や脳医学までを専門にしていたのを思い出した。
「ふむ、ではこう言おう。私も君と似たような素体なのだよ。能力者という分野のね。」
「そうなのか?」
初耳だった。
エージェントには異能力、前世でいうなら超能力をもつホルダーが何人も存在する。しかし、サポート職である彼にその能力が備わっていることは知らなかった。
「まあ、私の場合は君たちのように実戦や諜報活動に向いた能力ではないのだがね。記憶というものは脳の海馬と大脳皮質に刻まれる。新しい記憶は海馬に、古い記憶は大脳皮質にというのが定説だね。」
「クリスの能力はその記憶に関連するということか?」
「さすがだね。そう、右脳はイメージとして、左脳は言語としての記憶を司る。一般的には左脳は処理能力が低く、記憶容量も小さい。右脳は左脳の100万倍の容量があるといえばわかりやすいだろう。しかし、私の場合は左脳の記憶容量が常人を遥かに凌ぐのだよ。さらに脳自体の細胞が通常の2倍ある。これはかのアインシュタ···。」
また暴走が始まりそうだった。
「説明途中で悪いが、要は記憶に関する能力でホルダー認定されていたということだな。」
「···結論からいえばそうだ。」
結論だけで十分なのだが。




