最終章 You Only Live Twice 12
ビルシュの言う言葉はその通りかもしれなかった。
ただ、信者が相当数命を落とし、さらに尊厳を踏みにじられたというのに軽い言葉を吐くものだと思う。
教皇として教えを説く立場であることを考えると、不謹慎極まりないといえるだろう。
こういったところに本質が出ているのかも知れない。
ただ、それで確証を得れたともいえなかった。
「とりあえず、今のところは具体的な方策もないからね。天剣爵位の授与式とberserkr発足の発表を行おうと思っている。」
「それはどうしても必要なことか?」
「人々の希望になる。今後訪れるかもしれない混沌に、一筋の光は必要だよ。」
聖職者としての言葉と考えると妥当だ。
ルシファーとの邂逅がなければ大した疑問を持たなかった可能性すらある。
おそらく、俺はどちらとも判断がつかずに混乱しているのだろう。
ビルシュとルシファーのどちらが正しいのか確証を得れずにいるのだ。
どちらか、もしくは双方が意識操作を行ったとして、その効果は絶大だといえる。
この迷いが目的という可能性も考えられた。
選択肢というのはいつも数が少ないわけではない。作為的な術というものは複雑に絡みあい、本質から目を背けさせる。
それに流されるか浅慮な思考で決断すれば、待っているのは後悔と破滅だ。
俺自身のことであればこんなに迷うことはなかっただろう。直感に従い、不具合があれば随時軌道修正すればいいだけなのだから。
俺個人の判断で多くの人が命を絶やす。
今更ながら、戦略を唱える者の責任の大きさを理解する。
広域の戦況を見守り司令を出す存在が、人の命を軽視する理由がこれだ。
少数の命で大多数が助かるならば、命とて駒のように扱うわけである。
狭義にこだわれば、間違いなく精神が崩壊してしまうだろう。
···エージェントとして、機械的に任務を遂行してきた俺が非難できるようなことではなかった。
俺の元の世界での後悔は、理から外れた自分への欺瞞だったのかもしれない。
しかし、それでも流されたいとは思わなかった。
教会本部を出てクリスを訪れた。弾薬などの補充と合わせて確認したいことがあったのだ。
「やあ、エージェント・ワン。浮かない顔をしているね。」
「いろいろとあったからな。」
「そうか。君も普通の人間らしい悩みを抱えたといったところかな。」
その言葉に、クリスの顔をじっと見た。
「おまえは誰なんだ?」
自然と口をついたのがその言葉だった。




