最終章 You Only Live Twice 10
「まさか···。」
国王は絶句していた。
これが演技ならアカデミー賞ものではないかというほどの狼狽えだ。
血の気を失った顔に汗を吹き出させ、体が小刻みに震えている。
「私は過去に悪魔王の宝珠を破壊したことがありますが、今回と似たような状況でした。宝珠とはいえ、悪魔王の思念が入っている。それが外部からの力を求め、適合する肉体があれば憑依し依代にしようとする。あの遺跡の結界はそのためのものだと考えています。」
「それが事実なら···私はその幇助をしようとしていたということか。いや、しかし···教皇様が···。」
こいつはビルシュの指示で動いていたというよりも、巧みにのせられたというべきだろう。
国を思う気持ちなのかただの野心かは知らないが、娘を聖女にさせようと躍起になっていた面を考えれば小者である。
「教皇猊下には他に何らかの真意があったのかもしれません。」
「真意···。」
「私はただ調査を行っただけです。あなた方に邪な考えがあったとも思っておりません。」
「それは確かにそうだ!私は国のために···。」
「陛下、後は私にお任せください。教皇猊下の真意を確認し、あなた方にとって悪い顛末になるようなことは致しませんので。」
焦燥にかられる国王を落ち着かせ、今回の件を他言しないように言い含めた。
ビルシュから進捗確認などがあった場合は兵士や研究者が消息を断ち、その調査中だと報告するように伝える。
「天剣様···あなたは···。」
「猊下もお忙しい方です。秘匿されていた記述書を読み誤ったという可能性も捨て切れません。あまり事を荒立たてると余計なしがらみを生む可能性もあります。」
こう言っておけば保身のために余計な真似はしないだろう。
国王とて、教皇の機嫌を損ねて睨まれるのは避けたいはずだ。
「わ、わかりました。何とぞよろしく頼みます。」
これでこの場にいる必要はなくなったといえる。
宿泊している施設に戻り、今後のことについて話すことにした。
「あとは任せてもかまわないか?」
「ああ、問題ない。」
俺は隣国の元暗部の者たちに、残りの避難民のことを依頼する。
希望者はこの国で新たな生活を営み、残りの者は教会本部のあるシニタを目指すようだ。
ルルアとメリッサ、それにバードについては、転移でスレイヤーギルドの街へと送り届けることとなった。




