最終章 You Only Live Twice 8
昇華。
俺の中で何かが変化した。
具体的な説明はできない。しかし、これで瞬間的な力を引き出すことができることを理解する。
ルシファーが何かを施したのか、元から俺に備わっていた力なのかはわからない。
ただ、これは諸刃の剣だ。
使うほどに俺の霊力を削る。
グルルの力の源といえる霊力は自らの命を燃やす。過剰な消耗は死に直結するのだと直感が知らせていた。
しかし、これでビルシュに対抗できるかもしれない。
···いや、さすがに浅慮と言わざるを得ない。
まだルシファーの言葉が真実だとは断定できないのだ。
経験則による勘からいえば、先ほどの邂逅で得た情報は真実だと思う。アトレイクやビルシュが対峙すべき相手かもしれないということに感傷などない。
エージェントとしての経験はそんな思考をもたらせた。
今となっては、その過去に感謝すべきかもしれない。
今後のことを思えば慎重に動く必要があるだろう。
ルシファーから告げられた情報の真偽を確認しなければならない。
ビルシュはアトレイク教の教皇である。
教会本部にはクレアたちもおり、信者の数も膨大なものなのだ。
不用意に敵対すれば多くの者を巻き込み、どこにいても付け狙われる。
ルシファーの存在については疑問はなかった。
グルルとしての本質が無意識下でそう思わせているのか、それともこれも意識操作の一環なのかもしれない。
しかし、これまでの状況を考えれば矛盾はなかった。
たとえ踊らされているとしても、見極めるのは自分だ。
問題はアッシュたちを巻き込むべきかどうかである。
単独で動けば、万一の際に彼らが無辜の民と敵対することはない。
俺は今後の方向性を決める。
やがて視界に入る景色が切り替わり、あの巨大な扉の前へと戻っていた。
アッシュとファフが驚いたような目を向けている。
「随分と早いな。というより、一瞬だったが···。」
アッシュの言葉を聞く限り、俺が扉の中へ入ってからは時間経過がなかったようだ。
しかし、俺が扉に入ったのを見ていたことから現実のことだと判断できる。それに、体の内に覚醒したともいえる力が備わっていることも感じることができた。
俺はルシファーとの邂逅については触れず、この遺跡にかつては悪魔王を束ねた魔王がいたことを告げる。
「なるほどな。あの国王の狙いはそれだったということか。」
「おそらくな。しかし、この場にその遺物はもう存在しない。それを話してどう反応するかを見てみようと思っている。」
国王とビルシュの間に何らかの密約があるならば、それを感じ取れることはできるだろう。




