最終章 You Only Live Twice 7
「なぜ結界が今も機能しているんだ?」
冒険者の正体が何であれ、結界が機能していることはここを訪れる人間にとって脅威となりかねない。現に兵士たちが引きずり込まれた。
『結界は独自に機能しているからだ。近くにいる生物を引き込み、魔力を得るという役割を自動で行っている。これまでは地中に埋もれていたため、その存在が明るみに出なかっただけだ。』
「この遺跡が再び現れた理由は?」
『私がそう仕向けた。テトリアを誘き出す囮としてな。それに便乗したのがこの国の王だ。』
「···もしかして、冒険者十人はあんたの使い魔か何かか?」
『察しがいいな。あれは私が出した幻術だ。おまえをここに導いたのと似たようなものだ。』
「国王の狙いは?」
『さあな。私が仕向けたのはここに遺跡があると認知させたことだけだ。あとは勝手な判断で動いたのだろう。』
勝手ではなく、そう動くと想定もしくは確信があったのだろう。
一国の王に知らせることで、ビルシュの耳に情報が届くと考えてのことだ。最初は国益になると遺跡探索を始めたのだろうが、途中でビルシュが気づいて動いた。俺たちはそこに巻き込まれただけの可能性が高かった。
しかし、国王とビルシュがすでに通じていることから、どう判断されるかが問題だ。
「ここであんたと俺が邂逅したことは気づかれていると思うか?」
『おそらくそれはない。そのために結界をそのままにしておいたのだからな。あれは神力や霊力を内に通さない。魔力も同様だ。』
何となく理解できた。
今回のことはルシファーが仕組んだものだ。
ビルシュや国王、そして俺も彼の手のひらに転がされていたということだと思う。
しかし、ここに来てルシファーが動いたということは、そのタイミングに重大な意味を持つということだろう。
「これから何が起ころうとしている?」
『今回の古代エルフの動きは奴に神格化をもたらす可能性がある。そうなったときにこの世は暗転するかもしれん。』
「ビルシュの目的がそれだというのか?」
『おそらくな。奴らは人を盤面の駒としか思っておらん。』
ルシファーという名は"光を掲げる者"という意味がある。そして、人のために神に背き、自ら堕天したともされているのだ。
「俺はあんたを信じるべきなのか?」
『それを選択するのはおまえ自身だ。私は事実のみを伝えに来た。』
そこでルシファーは微かに笑って消えた。
神話や諸説を信じるつもりはない。
しかし、最後に見せた彼の表情に"明けの明星"といわれる存在の神格を見た気がした。




