第4章 朋友 「relic⑰」
巨大な扉に吸い込まれるように中に入った。
そこは一片の穢れもない白い空間のように見える。
視界を白一色に支配され、遠近感も何もない状態だ。
しばらく様子を窺っていたが、何も起きる様子もないため前へ進むことにした。
歩行による視界の揺れすら感じることはない。どれだけの距離を歩いたのか、時間の経過すらわからなくなる空間である。
やがて、ひとつの黒い点が見えた気がした。
それが何かの物体であるかは判断できなかったが、まずはそれを目指すことにする。
近いようで遠い間合い。
どれほど歩いたかはわからないが、黒い点は徐々に大きくなり見覚えのある存在をはっきりと目にすることになる。
その存在と話ができる距離にまで近づき足を止めた。
『久しぶりというべきかな。』
「そうだな。いろいろと動き回っていることは聞いている。」
『やはり誤解があるようだね。』
「誤解ならいいがな。邪神シュティン。」
そうだ。
俺の目の前にいるのはあの少年である。
かつて、元の世界で護衛対象だった。
『それからして誤解だと言っているんだよ。』
敵意はまったく感じられなかった。
それに、邪神と呼ばれるものにしては、威圧的なものや邪気も感知できない。
「誤解とは?」
『見聞とは情報として非常に多くのものを人に伝える。しかし、それが巧妙なものほど、相手に違う認識を与えるものであることは知っているよね。』
「確かにそうだ。」
『では、僕に関する認識もそうだとは思わないのかい?』
この少年は元の世界だけでなく、こちらの世界でも俺の前に現れたことがある。そういった意味で、普通の人間でないことは間違いないだろう。
「これまでの経緯で認識したものを覆せということか?」
『その認識じたいが何から始まったかだよ。僕は君の前で何かしたかな?』
彼が俺の目の前でしたことはそれほど多くはない。
護衛対象として見た目からは想像できない能力を持ち、精神的なタフさや賢明さを持っていることは知っている。
そして、こちらの世界では···
確かに彼は俺の目の前で何もしていない。
そう今更ながらに気づいた。
『君の頭の中にある固定観念は、何者かが植え付けたものだとしたらどうする?』
記憶をたぐり、彼の言うことが真実かどうか考えようとした。
『もしかしたら、僕の知らないところで偽りの僕を目の当たりにしたかもしれない。しかし、そうだったとして、それが僕自身なのかどうやって判断したのかを考えてみるといいよ。』
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