第4章 朋友 「relic⑮」
「パティのブラジャーがどうしたって?」
そんなこと言ってねぇ。
「プラジャーパティだ。おまえ、神罰が下るぞ。」
適当なことを言うアッシュにツッコミを入れておいた。
プラジャーパティとは、インド神話における宇宙万物の創造神のことだ。
「知っている神なのか?」
「何かの文献で見たことがあるだけだが、この世界の神ではないからな。ただ似ているだけだろう。」
連想から放った言葉に過ぎない。
ただ、一番上にいる存在は別として、残りの十が気になった。
飛躍し過ぎかもしれないが、ここにいたかもしれない冒険者の人数と一致するのだ。
あくまでそういった見方ができるというだけなのかもしれない。少し過敏になり過ぎだろうか。
「こちらではそういった神の名は聞かないな。天使や使徒が神に従うといったものはあるが、この壁画からはそういった印象は受けない。」
アッシュがいうように、天使や使徒ならもっと描写に一貫性がありそうにも思う。この壁画に描かれているものは、それぞれに個性が強かった。
「考えても仕方がないな。先へ進もうか。」
そう言って進行方向に目を向けると、その存在が視界に入った。
何の気配も視線も感じなかったはずだ。
「···················。」
「どうした?」
アッシュとファフの様子を見る限り、ふたりにはその姿が見えていないらしい。
そして、視線を戻したときにはそこには何もいなかった。
視線をそらしたのはほんの一瞬だ。
その間に敵意や戦意を感じることはなかった。
それを目にしたときから邪気なども一切感じることはなかったのだが、ただの見間違いだろうか。
いや、それ以前になぜ警戒もせずに視線を外したのか。
これまでの自分の習性を考えると、その行為事態が異常に感じる。
不可思議なものを目の当たりにして気を緩めることなどなかったはずだ。
そして今もアッシュがひとりで前に進むのを見て制止することなく、ただそれを見ている。
本能的な警戒が出てこないのはなぜだろうか。
「どうかしたのか?」
ファフがじっと俺を見ていた。
「今、何か異変を感じなかったか?」
「いや、特に何も感じなかったぞ。」
ファフの表情に警戒の色が浮かんだ。
これが普通の反応だと思った。
なぜ俺はあれを見て何も感じなかったのか。単なる見間違いで、本質的な危険がないと頭が勝手に判断したのだろうか。
漠然とした疑問だけが残った。




