第4章 朋友 「relic②」
開口部からロープを投入する。
光が照らされて様子が確認できるのは上辺部だけで、底までどのくらいの高さがあるかは確認できなかった。
ロープの先端に錘を吊るしたが、底に触れた様子はなく10メートル近くある長さでは足りないとだけしかわからない。
下に誰かがいても錘で負傷しないようにゆっくりと降ろしたのだが、あまり意味はなかったようだ。
衛兵や研究者たちが中にいる可能性もあるが、敵対行為をする魔物やそれ以外の存在も無視できない。不用意に降下して、いきなり攻撃される状況だけは避けなければならないだろう。
「マトリックスでゆっくりと降下する。ファフは後ろに乗って万一の際に迎撃してくれ。アッシュは地上で何かが接近する可能性に備えて欲しい。」
「了解だ。」
「地上にも危険があると思うか?」
アッシュの言葉は、周囲に争った痕跡がないことから発したものだろう。しかし、地上で意識を奪われて連れ去られた可能性がないわけではない。
120名の人間が争った形跡なしに蒸発しているのだから、現実的な相手ではないだろう。広範囲に魔法などを放ったとして、それだけの人数を運ぶとなると物理的な運搬というのは想像しにくい。
もし他国の軍などが動いたとするならば、馬車の車輪や足跡などが残っていてもおかしくはないのだ。
この辺り一帯にそのようなものはなく、遺跡内部に連れ去られたか、地上で意識のない状態で運ばれたかのどちらかだと推測できた。
厄介なのは、地面にその痕跡がないため、転移や浮遊による運搬ではないかと考えられることだ。
「可能性でいえばありうる。相手は人ではないはずだ。」
「だろうな。警戒は緩めないようにしておく。インカムが通じない可能性があるから、ふたりが降りてから一時間経過したら俺も後を追うぞ。」
「そうだな。」
軽く打ち合わせた後、ファフを後部に乗せて発進させた。
ファフは加護により短時間なら飛行もできる。
底で何かを発見すれば、インカムが通じなくても単独でアッシュのところへ戻ることも可能だ。
「端の方に寄せて下降してくれ。灯りのかわりに炎を飛ばす。」
ファフの言う通りにマトリックスを端に寄せながら下降した。
ファフは小さな炎の球を3つ飛ばし、こちらの下降速度に合わせるように遠隔操作する。炎球はマトリックスよりも5メートルほど下を先行しているため、照明として十分な役目を果たした。
「何かいるぞ。」
30メートルほど下降した頃合で、ファフが目を凝らしながらそう言った。




