第4章 朋友 「相棒⑬」
「何があった?」
息が荒いアッシュにそう聞くと、げっそりした表情で訳のわからないことを言い出した。
「嫁に追いかけられた。」
「···錯乱状態か?」
こんなところになぜアッシュの嫁がいる。
「違う。城に入ってからしばらくして悪寒が走った。それから逃げるように奥へと走ったんだが、その気配はずっと追って来てな。タイミングを見てその気配の主を確認したら、無表情で追ってくる俺の嫁だった。」
「そうか···頭は大丈夫か?」
錯乱ではなく、先ほどの悪魔がまだいるのだろうか。
もしかすると、こいつも奴の幻影か何かか。
「だから正常だって。今思えば、あれは敵の幻術か何かだったと言えるが···」
これ以上にないほど真面目な顔でそう話すアッシュを見て、敵認定して斬った方がよいのではないかと本気で考えてしまった。
「それで、なぜ鎧の中にいた?偽テトリア···あの悪魔が言っていた話によれば、おまえは自分から鎧に入ったと言っていたが。」
「追ってくる嫁から身を隠すために、置いてあった鎧で偽装しようとしたんだ。」
バカじゃないのかコイツ。
「おまえの嫁はそこまで恐怖の対象か?」
「おまえは独り身だから知らないんだ。嫁は怖いぞ···」
それは人によるだろう。それにアッシュ側にも何か落ち度があったりするのじゃないのか?
相変わらず、俺の中でのアッシュ嫁最強説はとどまることを知らない。もしかすると、あらゆる意味でマルガレーテを凌駕する存在なのではなかろうか。
「おまえを見ていると結婚に幻想を持てなくなるよ。」
アッシュの嫁とはまだ会ったことがない。
特に会いたいとも思わないが、フェリやパティいわく「アッシュ嫁はきれいで優しい」のだそうだ。リルとも仲が良いらしい。
彼女たちは嘘をつかないだろう。
それとも社交辞令的なアレだろうか。
まあ、どうでもいいことだ。
それよりも、鎧の一連の騒動があの悪魔によるものかどうかを考えなければならない。
聖剣ライニングで斬ったと同時に鎧まで霧散した。
あれも幻影か悪魔の一部ということだろう。
そう考えると、消えた鎧はどこに行ったのかが気になる。
アッシュに通信を行ってもらい、ギルドやフェリたちのところで問題が起きていないか確認してもらった。
今のところは大丈夫のようだったので、この城を調査してから戻ることにする。
本物の鎧はテトリアが奪還したものだとすると、こちらは陽動と考えるべきだ。
あまりにも杜撰な陽動ではあるが、何かの時間稼ぎならその効果は果たされたのかもしれない。




