第4章 朋友 「相棒⑦」
王都全体を観察しながら、目についた悪魔を排除していく。
核を破壊しなければ無力化できないため、それほど簡単なことではない。
アッシュの攻撃は霊力もしくは魔力を消耗する。対して俺の場合は、弾薬の消耗とマトリックスを停車させるためのタイムロスが生じた。
意思を感じられない悪魔たちを討伐しながら、時間だけが経過していく。
「なあ、途中から数えるのをやめたが、どれくらい倒した?」
アッシュが飽き顔でそう言ってきた。
「さっきので628体目だ。」
「キリがないな。」
「そうだな。一度離脱しよう。」
体力的な問題よりも精神的な消耗を強いられた。
性質が変わったとはいえ、倒した悪魔は元人間なのだ。
今後の脅威として仕方がないとはいえ、これではただの虐殺に近いものがある。
慣れているとはいえ、人の命を奪う感覚は気持ちのいいものではない。それはアッシュの憂いた眼を見ていても同じなのだと思う。
飽きた表情を見せるのは、アッシュなりの配慮なのだろう。
こういった感情は伝播する。
互いに暗い顔を見せると、モチベーションが維持できなくなってしまうのだ。
「フェリたちにはさせられないな。」
王都から離れた位置で野営した。
肌寒さは感じないので焚き火などはしない。
炎というものは離れた位置からでも容易に視認できるものである。近場の魔物が寄ってくる可能性はあるが、その程度なら気配や邪気を読めば事前に対処できた。
それが悪魔にすりかわると休息どころではなくなってしまう。
簡易な携帯食料を口に入れながらアッシュの表情を見る。
苛烈な戦闘を行うが、彼は情が深い。いつだったか、騎士ではなくスレイヤーを選んだ理由のひとつとして、「人を相手にしなくてもいいからだ」と言っていた気がする。
スレイヤーの討伐対象は生まれながらにしての魔族である。それとは異なり、騎士は人を相手にしなければならない。状況によっては、顔見知りでも剣をまじえる可能性すらあるのだ。
「きついか?」
「正直、思うところはあるさ。でも、他の者にさせることを考えればどうってことはない。」
こういったところが人間の弱さだと、悪魔や魔族なら言うかもしれない。しかし、それが人間の良さでもある。
「俺の手はかなり以前から血で汚れている。割り切ることで精神を安定させているから、すでに異常と言っていい。」
「意外だな。おまえでもそうなのか?」
「当たり前だ。寝ているときに不意に悪夢で目覚めることもある。ただ、それで救われてる命もあると自己正当化させるしかない。」
「なるほどな。」
アッシュは少し遠い目をしていた。
こういった気持ちがなくなるのは人間をやめるときだと思う。それならば、悪夢にうなされる方がまだいいと思えた。




