147話 レイド vs上位魔族③
アッシュは久しぶりのレイドに心が躍っていた。不謹慎とはわかってはいたが、バトルジャンキーの血は抑えられない。
タイガの存在は非常に大きい。
たった一人で複数体の魔族を倒しただけではない。国の大勢に影響する事件まで難なく解決に導き、気難しいことで有名な大公にまですぐに気に入られた。
おかげで自分は執務室に拘束されて事務仕事に忙殺されるようになった。デスクワークが一番嫌いなのにだ。
だが、アッシュはそれで良いとも感じていた。
身近な人間が命を落とすことのない環境···平和なことが一番だと思う。強いて言えば、もっと模擬戦や巡回任務に参加をしたい。ただそれだけなのだ。
タイガに対しては嫉妬などを感じることもなく、良いライバルであると思っている。一緒に酒を飲んでいてもノリが良いので会話も弾む。
一度、「コミュニケーション能力がスゴいな。」と聞くと、「関西人だからだろう。」とよくわからないことを言っていた。「カンサイ」とは、たぶん出身の地域のことを言っているのだろうが、
生まれついてノリが良い?
コミュニケーション能力が高い?
そんな人間ばかりの地域ってどんなところなんだ?
ある意味で恐ろしい気がするが···。
そういえば、冗談を言った相手に「なんでやねん!」と言って胸を手の甲で叩く「ツッコミ」という名の慣習を歓迎会で披露していた。
それを見ていたスレイヤーの間で「なんでやねん!」が流行りだしたそうだが、初心者が力の加減を間違えて3人くらいが胸骨を折られて治療院送りになったらしい···うん、やっぱり「カンサイ」は恐ろしいところなんだと思う。そんなところで生まれ育ったからあいつはあんなに強いんだろう。納得だ。
あの「ツッコミ」も、タイガは相手に痛みを与えない絶妙な力加減でやっていた。女の子達に「私にもやってみて!」と言われて、合意の上で胸にタッチするというラッキースケベシチュエーションまで自己演出していたくらいだ。
たぶん「ツッコミ」にもスレイヤーと同じようなランクがあって、タイガはランクSかマスタークラスなんだろう。
····本当に恐るべしだな、カンサイジン···。
そんなこんなでアッシュはタイガのことを気に入っていた。
あわよくば、タイガが身内になれば良いのにとも思っている。
あの男嫌いのフェリだけではなく、人とあまり深く関わろうとしないドライなリルも好意を寄せている。パティもそうだ。
本人は鈍いのか、まったく気がついてはいないが···そこが見ていて笑える。
あの中の誰かがタイガと結婚をするかもしれない。爵位を授与されれば一夫多妻も可能になるのでもしかしたら全員と···。
女性ばかりに囲まれた生活で尻に敷かれまくるタイガを思い浮かべてアッシュはニヤッと笑ったのだった。




