第4章 朋友 「sudden⑦」
暗部の男と将軍がどういった話をしたかはわからない。
こちらから特に聞く必要も無いだろう。
意識を取り戻させてから言葉を交わしていたが、その後の項垂れた将軍の姿を考えれば余計な行動を起こすことはないと感じられた。それだけ確認できれば十分である。
しばらくして、俺たちはようやく開かれたゲートをくぐり外に出た。
待機していた隣国の馬車と合流し、短いやり取りで人員を振り分けて出発の準備を進める。
馬車の隊列の中央に精霊馬車、そのすぐ後ろに借りた馬車を配置して出発した。
精霊馬車にはフェリとマルガレーテが御者台に陣取り、後ろの馬車にはメリッサとバード、暗部の男とパティにシェリル、そして俺が乗車する。
マルガレーテがいれば、万一の際でも精霊馬車の防御は問題ないだろう。
俺たちが乗る馬車についてはパティの魔法障壁で何とかなる。それに、メリッサの話し相手としてパティは適任だった。
パティは子供にも人気があり、メリッサともすでにある程度の話をする仲になっていたのだ。
こういったところは俺ではあまり役に立たない。天剣などという肩書きがメリッサとの間に見えない壁の様なものを作ってしまっている。
普通に会話はできるが、メリッサからは俺に対して少し遠慮が見られた。それを考えると、気がねなく話せる相手がいた方がいいと考えたのだ。
「一時はどうなることかと思った。」
暗部の男が口を開いた。
「良かったのか?あのまま砦にとどまるかと思っていたが。」
自国の最後の拠点である。配属されていた先は違うにしても、同じ国家に仕えていた者同士だ。そこを離れるということは、自国を離れるという意味があるように思えたのだ。
「逆にあそこに残っても衝突するだけだ。だったら、自国民や聖女候補であるメリッサ様のために動く方がいい。」
「そうか。いろいろと助かった。」
「それはこちらのセリフだ。あんたがいなければ無事にここまで来られなかっただろう。それに助からなかった命も多いはずだ。」
「暗部が肌に合わないと思ったことはないか?」
この男は、当初思っていた以上に実直だ。倫理観も強い。
「ずっと思っていたさ。残念な状況だが、やっと肩の荷がおりた気がするね。」
まだ安心はできない。
隣国でどのような扱いを受けるかわからないのだ。
「できれば属していたところは黙っていた方がいいな。」
「まあ、そうだろうな。国が滅びたとはいえ、向こうにとっては扱いに困るだろうしな。」
暗部というのはそういうものだ。
場合によっては敵視される可能性すらあった。




