第4章 朋友 「sudden④」
聖女を排出した国は、それなりの恩恵を受けるのだと聞いている。
推測でしかないが、隣国は一度途絶えた栄誉を再び我がものにしようと画策しているのではないだろうか。
悪魔の侵攻により正式な聖女候補者であるメリッサの安否が確認できなかったが、俺がここを訪れたことにより身の安全が立証されてしまった。
前回の訪問時には、イハイヤ将軍にとってその話は無関係だったのかもしれない。しかし、この数日で隣国との間で情報交換を行い、メリッサの身柄を要求された可能性があった。
隣国にしてみればメリッサの生死は問わないであろう。しかし同行者に暗部の者がまぎれているのを知った将軍は、彼女の命を断つことに躊躇いをもったのかもしれない。
暗部というのはどこで目を光らせ、どのような連絡手段を持っているかを自国の重鎮に対しても明らかにしないものだ。避難民や一緒にいるスレイヤーの中にも、その仲間が隠れている可能性すら考えなければならない。
将軍は長い軍歴の中でそのことを知っているのだろう。だからこそ、メリッサの身柄をそのまま隣国に引き渡そうとしている可能性が高かった。
将軍が抱えている不安を取り除くためには、ここにいる俺たち全員を排除するしかない。しかし、自国民である者たちまで手にかけたとなると、部下の中にも疑念が生まれる。だからこそ穏便にことを進めようとして、この場で待機させることを選んだのだと考えられた。
将軍にとっての見返りが隣国で同等の力を得ることなのか、単に一財産を稼ぐ程度のものなのかはわからない。しかし、属している国が崩壊した状況で、私腹を肥やす行為をするなど愚かとしかいえない。
ただ我が身かわいさに、他の人間を陥れようとしているというだけの話だ。
もちろん、他にも可能性がないわけじゃないが、こちらの身を気づかっての配慮なら何らかの提案や相談はしてきただろう。それがなかったということは、いずれにしても背徳的な思惑が背景にあるということである。
しかし、これが事実だとすると、隣国に渡ったところで俺たちは助力を得られない可能性が高い。とりあえず、今は目の前の厄介事を片付けることに集中し、後でどうするかを考えるしかなかった。
「イハイヤ将軍。こちらの疑念が晴れない限り、ここにとどまるのは危険だとしか思えない。もう一度言う。ゲートを開けてくれ。」
「断る。」
仕方がない。
俺はSG-02を顕現させ、マルガレーテに目線を送った。




