第4章 朋友 「secession⑭」
数時間の休息を取った後、マトリックスで偵察に出向いた。
今回は単独で行動する。
直線ではそれほどの距離はない。万一に備えて目的地までの半ばあたりの地点で、迂回するようにコースを変更した。
避難場所にしている砦から、兵士がすべていなくなった原因は掴めていない。
これから向かう砦で争乱があったかは不明だ。可能性を考えると慎重な行動をした方がいいだろう。
王都からの距離とこれまでの状況を考えると、この先に悪魔が待ち構えている可能性は低いかもしれない。国境の砦が王都の異変に気づき、偵察用の兵士を派遣させたと考えるべきだ。補給拠点を破棄した理由も、戦力を集中させるために人員を割いたと捉えられる。
ただ、それで補給拠点を完全に破棄するというのは、異常事態といえた。余程のことが起きたか、そうせざる理由があったのか。
いずれにしても何かを推測できるほどの材料はない。現地で実際に確認するしかない状況だ。
ただ、個人的にはどうでもいいことでもある。
暗部の者が聞けば怒るかもしれないが、国境の砦を偵察する目的は、そこが一時的にでも避難場所として使えるかということでしかない。可能なら食料などの補給もしておきたかった。
余計なことをあれこれ考えても、すべてを好転させられるわけではない。
俺の優先順位はメリッサを教会本部に無事送り届けることと、フェリやパティたちが負傷しないことのみである。
当初の目的である転移ルートの確立は既に完了した。状況確認についても必要最低限のことは達成している。
これ以上の厄介事に首を突っ込んだところで、解決できるかといえば難しい。
多くの人の命を切り捨てるのかといわれるとそうかもしれなかった。しかし、そこに注力して共倒れとなるのであれば、救える命だけに集中する方がいい。
大局的な考え方になるが、脅威を排除するという目的を疎かにすると、後の犠牲は天文学的な数字にのぼるだろう。
こういった部分はエージェント時代のジレンマとして根強く残っている。
違うところといえば、任務外の行動を阻害する上層部がいないという点だ。救えるものは救う。しかし、より多くの命を脅威にさらさないための取捨選択を回避することは困難だった。
結局、単独でできることなど大したことではないのだ。理想と現実の乖離に嘆くのはいつものことなのである。




