第4章 朋友 「secession⑫」
出発してから特に波乱は起きなかった。
フェリの体調と精霊馬車の収容人数を考えて、目的地である砦までは4~5日かかると計算している。
時折、魔物を見かけることもあったため、その都度マトリックスで馬車から離れた位置まで移動して狙撃で対処した。
馬車の上から狙撃することは緊急時にしかしない。
狙撃による轟音は避難民たちに不安を与えるだろうし、発射の反動で馬車の屋根が損傷する可能性も考慮した。
ただ、馬車での移動は体力を消耗する。
立ったまま揺られている者も多く、気分を悪くする者もいたため、予想よりも到着に時間がかかりそうだった。
「わかりました。」
メリッサには今後のことについて話をした。
彼女自身も途中の国で避難民たちと別れることは納得せざるを得なかったようだ。
「心配しなくても大丈夫だ。彼らが普通の生活を送れるように交渉はする。」
「何から何までありがとうございます。」
メリッサは疲れた表情をしていた。
心労が重なって辛いのだろうが、弱音を吐かないだけにその負担は小さくはないのだろう。
「みんなを心配する気持ちはわかる。ただ、メリッサが元気だからこそ励まされる者も多い。難しいかもしれないが、あまり無理はしない方がいい。」
「はい。わかってはいるのですが···。」
困っている者、苦しんでいる者を見てほっとけない性分なのだろう。
「メリッサ様、今日は早めに休みましょう。」
見かねたのか、ルルアが声をかけてきた。
「はい。」
メリッサもルルアの言葉に素直に従っている。やはり相当疲れているのだろう。
ふたりで馬車に入って行くのを見送った。中にはフェリもいて、食事をした後にすぐに休ませている。
「タイガも休んだ方がいいと思うよ。ちゃんと寝れてないでしょう?」
パティが傍に来てそう言った。
「そうだな。でも、みんなに来てもらってかなり楽になったよ。」
おそらく、俺一人では対処できないことも多かったはずだ。
「もっと頼ってくれたらいいよ。タイガもメリッサ様と同じで抱え込み過ぎるから。」
「そう、見える?」
少し意外だった。
エージェント時代はいろいろと割り切って自分への負担は最小限にすることが常だったが、今は少し違っているらしい。
「そうだよ。」
「そうか。頼りにさせてもらうよ。」
「うん。」
「ありがとうな。」
俺はそう言って、体を休ませるために目を閉じた。




