第4章 朋友 「secession⑧」
考えていたよりもスムーズな道程だった。
砦を出発してから数時間が経過し、夜を迎えている。街までの距離は5分の2を消化した感じだろうか。
比較的平坦な道が続き、魔物などの襲撃もなかったのが幸いした。
明日一日で残りを走破し、暗くなるまでには到着したいところだ。
フェリは馬車の中で熟睡している。
もともと魔力の制御に長けた精霊魔法士ではあるが、やはり連続した魔法の発動はかなり疲弊するのだろう。
魔法が使えない俺にはその感覚がわからないが、精神だけでなく肉体的にも消耗が激しいことはなんとなく感じられた。
明日は今日よりも長い稼働となる。
本人は見張りを途中で変わると言っていたが、そのまま朝まで寝てもらうつもりだった。
俺に関しては夜通しの警戒など日常茶飯事なことだ。一睡もしないわけではなく、意識を半ば覚醒した状態で休息をとる方法くらいは身につけていた。
それほどの回復が見込めるわけではないが、極限状態にいるわけでもないので体を休めるには十分だった。
人間とは不思議なもので、全快状態だとどこかで精神的な緩みが発生してしまう。少し疲弊した状態の方が集中できたりするものなのだ。これはストレスでも同じようなものらしい。適度なストレスがなければ人間は脳を退化させるらしく、心身の疲れと似たような性質なのだなと思ったことがある。
今後のことについて考えを巡らせた。
警戒すべきことはそれほどない。
マルガレーテたちを呼んだことで、負担はかなり減ったといえるだろう。避難民たちの生存率もそれに応じて引き上がったといえる。
しかし、まだ安全な場所までは先が長い。
それにメリッサをどのタイミングで教会本部へと連れ帰るかが難しいところだった。
転移を使えばすぐにでも可能ではある。しかし、本人はそれを望まないだろう。
少なくとも避難民が無事に過ごせる場所へと到達しなければ、無理に連れ帰ることは躊躇われた。
彼女への優しさというよりも、今後の聖女としての活動に支障をきたすことが目に見えているからだ。
彼女の甲斐甲斐しい姿を見ていると、自分だけ助かるという思考は先にしこりとして残ってしまうだろう。
避難民の一部には絶対的な信仰を持っていない者もいる。そういった者たちは、有事の際に人の恩義などすぐに忘れてしまうものだ。
それが悪いとは思わない。そういったことも含めて人間なのだと俺は思っている。
しかし、メリッサにとってはそういった割り切りは難しいのだと思う。他人を思う心が強い人ほど、崩れたときに脆いものなのだ。




