第4章 朋友 「secession⑥」
マトリックスで一度上昇し、周囲の状況を確認した。
精霊馬車にフェリとふたりで乗車して街へと戻るため、事前に障害がないか確認しておいたのだ。
一定距離ごとに周囲警戒を行っておくことで、不測の事態に陥らないようにしておかなければならない。
「ゆっくりでいいから無理をしないようにな。」
街に着いてからも、状況によってはすぐに精霊馬車を出してもらうことになる。それに、避難民たちの休息も長い方がいい。
「ありがとう。」
「こちらこそありがとう。避難民を安全に輸送するためにはフェリがいなければ難しかったからな。」
えへへとフェリが照れ笑いを浮かべていた。
クリスに依頼してマトリックスベースの大型輸送挺でも作ってもらえればいいのだが、それには時間が相当かかるだろう。
気が休まるわけではなかったが、こうしてフェリとふたりで馬車に揺られていると、ゆっくりとした時間が流れていく。
スレイヤーギルドの街で過ごした最初の数日間が思い出された。
「タイガ、ひとつ聞いてもいい?」
「どうした?」
「その···マルガレーテさんとは···どういう関係?」
「天敵だ。」
俺は素直にそう答えた。
「て、天敵!?」
「本当の意味で敵というわけじゃない。俺よりも強いし、味方としては頼りになる。」
「その···天敵という意味は?」
「彼女の思考は読みにくい。そしてたまに怖い。」
「あ、はは···。」
嘘ではなかった。
身近にいる者では一番わかりにくいのがマルガレーテだ。
フェリがどういった意味で聞いてきたかはわからないが、敵ならかなり厄介な相手だといえる。
彼女との出会いは、今思い出しても冷や汗ものだった。
よく味方になってくれたものだ。
「そうなんだ。タイガにも苦手な人がいるんだね。」
フェリが笑いながらそう言った。
「ん?結構多いぞ。」
「そうなの?」
「国王も大公もタヌキ親父だし、ビルシュは変人で理解しにくい。サキナの親父さんは脳筋過ぎて怖すぎるからな。」
「は···ははは。」
フェリも何となく理解出来るようだ。
「明確に敵だというならまだ扱いやすいが、彼らは根が善人だからな。」
「何となくわかるよ。タイガは···その、これまで味方といえる人に恵まれていなかったんじゃないかなって。」
フェリの言う通りだ。
親や家族、職場でも本当の意味で味方はいなかった。
「そうかもしれないな。」
「でもクリスさんとは仲が良いよね?」
クリスのことは一部の人間には話してある。
「あいつとは仲が良いというよりも、互いに利用しあう仲だな。利害が一致してる。」
フェリは呆気にとられた顔をした後にくすくすと笑いだした。




