第4章 朋友 「blassreiter⑤」
「俺たちは、あの状態を便宜上"悪魔憑き"と呼ぶことにした。」
「悪魔憑き···。」
暗部の男の言葉にメリッサが愕然とする。
「悪魔の血によって自らの意思をなくし、攻撃する本能だけを残した状態だ。元が人間なだけに不本意な呼称だがな。」
タイガの話によると、悪魔化の前に魔族化が前提にあるらしい。そう考えると、厳密にいえば悪魔ではないのかもしれない。しかし、似たような状態ではあるだろう。
普通の生活を営んでいた彼らの結末としては悲し過ぎる。
ルルアはそう感じて、目に涙を浮かべた。
隣には、声を抑えながらも嗚咽するメリッサがいる。いたたまれなくなったルルアは、メリッサを抱きしめた。
「それで、どうする?迂回して先に進むか?」
バードは冷静にそう言った。
彼も苦しげな表情を浮かべてはいる。しかし、ことの優先順位を違えることはない。やはり聖騎士としての義務感が強いのだろう。
「迂回しても、その先の状況は同じだろうな。」
「···船に乗るためには、彼らを排除するしかないということか?」
「そうだ。もしくは、陸路を越えるルートを考えるかだ。」
暗部の男の意見はもっともだった。
悪魔憑きとなった彼らの排除が可能なら、予定通り進んだ方がいいだろう。
これから陸路へと進路を変更すると、悪魔や魔族以外に魔物の脅威にも目を向けなければならない。
非戦闘員が多い集団としては、その選択肢は危険が大きかった。
「あの状態だと、どのくらいの戦力が必要なんだ?」
「悪魔や魔族と違い、動きは鈍い。精神的な足枷がなければ、今の戦力でも問題はないだろう。」
要は、自我をなくした人間を、手にかけられるかどうかということだった。
「やるしかないだろうな。」
一般人にやらせるわけにはいかない。これは人を守り、戦いに身を置く者の務めである。
「そうだな。俺たちも一緒にやる。」
「お、お待ちください。」
そこでメリッサが口を挟んだ。
「メリッサ様···。」
「避けて通ることはできないのでしょうか?彼らは自我をなくしているとはいえ、まだ人間なのでは···。」
「残念ですが、彼らはもう元に戻らないのですよ。放置しておくと、いずれ他の者たちが犠牲を負います。」
「そんな···。」
残酷な事実にメリッサは青ざめた。
何の罪もない人々が命を絶たれなければならない。しかも、人としての尊厳すら奪われてだ。
そして、彼らを永遠の眠りにつかせようという者たちも、深い業を背負うことになる。
メリッサは両手を組み、神に祈るのだった。




