第4章 朋友 「blassreiter①」
都市跡を離れてから、すでに数時間が経過していた。
頻繁に爆発音や破裂音が鳴り響いていたが、それが聞こえるということはタイガが生きていることだ。ルルアはそう自分に言い聞かせながら索敵を行っていた。
行進の速度は遅い。
避難民の中には子供や年老いた者もいるため、想定の範囲だといえる。ただ、その分だけ危険度が増し、タイガが陽動で時間稼ぎをしなければならなかった。
自分と似たような固有スキルを持つタイガは、出会って間がないとはいえルルアにとって気を許せる相手である。
恋慕などの感情ではなく、彼の人種に関する偏見を持たない気質はこの危機的状況の中でこの上なく安心できる相手だといえた。
避難民たちのほとんどは自分がハーフエルフであることに気づいていない。それに、人並外れた索敵能力を持つルルアを邪険にすることはなかった。
それでも身の安全が確保されれば、手のひら返しをする者は少なからずいるだろう。
厳しい状況でも一時難を逃れれば、人は身近に怒りのはけ口を設けようとする。たぶん、今回もこれまでと同じだ。
メリッサやバードはルルアが何者であるか知っている。
メリッサは聖女候補としての神がかった力によるもので、ルルアがヒト族とは違う血が混じっていることを看破した。悪い意味で素性を見極めたのではなく、その特殊な力を貸して欲しいのだと懇願されたのである。
バードの場合は少し違った。彼は冒険者の中に亜人が数名ほどまぎれていることを知り、メリッサに害をなさないか警戒する立場にあったのだ。
アトレイク教の教義では人種差別は厳禁である。しかし、崇拝する対象が異なり、過去に小さいながらも宗教戦争を引き起こした亜人については信用していないのだそうだ。
今現在でいえば、亜人と呼ばれる者はこの大陸に表立って居を構えていない。
ヒト族があまり踏み込まない山奥に小さな集落を構えていることが多いようだ。
これから先、安全な場所に逃げきれたとして、何かの拍子にバードが自分の素性を周囲にバラさないとは限らない。
彼は悪人ではないが、プライドが高く偏見があるように見えた。
タイガと共に行けば、そのような心配をすることは減るかもしれない。
そして、彼がいうようにアトレイク教の現教皇が自分と同じハーフエルフなら、人生は変わるかもしれないと思った。
打算なのはわかっている。
しかし、タイガに安心を感じたのは事実で、嫌な人生から救われたいと思っていることも本心であった。




