13話 異世界の「ザ·ワン」
魔法の攻撃を受けるというのは、以前の世界ではフィクションでしかない。
実際に受けてみるとかなりの迫力で、直撃するまで何度も「逃げろ」「怖い」と言う本能を抑え込む必要があった。
アッシュが放った炎撃は威力を抑えてもらっていたはずなのだが、ゴォーッという唸りをあげて高速で迫ってくる。
これで手加減とは、随分と高レベルな魔法士なのかもしれない。
直径1メートルほどの火の玉が、まっすぐに襲ってくる恐怖心はハンパではなかった。
途中で、「兄さんっ!加減してないでしょっ!!」「あっ!間違えたーっ!!」と言うギルバート兄妹の声が聞こえてきた時には、『なんでやねん』と、心の内で俺の故郷の方言が出たものだ。
それについての結果だが、炎撃は俺に直撃した瞬間に消滅した。
痛みも熱さも感じることなく、まるで映画の主人公の視点をVRで視ていたかのような感じだ。
正直、めちゃくちゃ怖かったが。
思っていた通り、俺には魔法が効かなかった。魔法には化学反応のような定義があるのだろう。
撃ち出す時には術者の魔力を使うが、受ける側の魔力が起爆剤の役目を果たす的な。
「「「・・・・・・・・・·。」」」」
そんなことを考えていると、アッシュたちは本日何度目かのフリーズ状態に陥っている。
「悪かった。俺不器用だからさ。」
アッシュが後頭部をかきながら謝罪してきた。
死にさらされる危険に不器用は言い訳にならない。
「とりあえず殴っていいか?」と言うと、泣きそうな顔で「やめて、死ぬ。」と答えた。
いやいや、死にかけたのは俺の方なんだが?
「魔法がまったく効かないなんて、世界中を探してもあなただけよ。」
リルの発言に、アッシュたちもウンウンとうなずいている。
科学の世界から来た俺には異世界の魔法は通じない。
思いもよらず、俺はこちらの世界でも「ザ・ワン」と呼べるスキル保持者となった。
後日、俺はこの時の仕返しとして、アッシュの食事に激辛スパイスを投入した。
真っ赤なたらこ唇となったアッシュを見て、リルとフェリは腹筋が筋肉痛になるまで爆笑していたのが印象的だった。
物事を真面目にすることの大切さを知る教訓である。
「なかなかおもしろいなぁ」と感じたらブクマ&評価をお願いします。
モチベが上がって更新頻度を維持できます。
なんてねw