第4章 朋友 「Getaway⑥」
言葉少なに先を進んだ。
ルルアがハーフエルフだと知ったからではない。
断続的に聞こえてきた音が、階段を下りるに従って大きくなっていったからだ。
水が勢いよく落ちる激流のような音は、俺の耳にもしっかりと聞こえていた。
ただ、それよりも何らかの生物が発する息吹のような音が、より明瞭なものへと変わっている。
腹の底に響くような、まるでオカルト映画に出てくるアンデットから放たれるおぞましい声のようだ。
断続的に聞こえてくるそれが、悪魔とは違う別の禍々しいものに感じられた。
俺もルルアもこの建造物について詳しくは知らない。
もしかすると、ここを破棄して新しい都市に移らざるをえなかった何かが棲息しているのだろうか。
ソート・ジャッジメントで邪気の類は感じられない。
ルルアの異能にもそれらしい反応はなさそうだった。
「なんだと思う?」
「わからない。でも、生物の声というより、もっと無機質な物に感じる。」
無機質といわれれば、確かにそう思える。
上階にあった足跡が悪魔や魔族のものだったとして、それに関連する何かだろうか。
テトリアが憑依していた悪魔王はこの地域に封印されていた。しかし、それは宝珠も含めてもう存在しない。
ならば、その悪魔王が従えていた何者かだろうか。
いや、それならば同じように封印されていたはずだ。
情報が少なすぎる。
どのような脅威があるかはわからないが、俺やルルアのスキルに反応がないことがさらに謎を深めていた。
階段が途切れた。
踊り場のようなものかと思ったが、しばらく歩いても足もとは平坦なものが続いている。
パリンと何かが割れた感触がした。
薄氷を踏み砕いたようなやつだ。
「今、魔法陣みたいなものを破壊した?」
「やはり魔法陣だったのか?」
「うん。魔法を起動させる設置型の術式。簡単に解除できるものではないはずだけど、どうやったの?」
「俺には魔力がない。だから、触れた魔法は無力化される。」
「それ、本当?そんな人がいるのは初めて聞いたけど。」
「事実だ。」
「だからトラップや結界が無効化されたのね。それなりに高度なものだったのに、どれだけ優れた魔法士なのかと思っていたわ。」
「もしかして、トラップは君が?」
みんなが避難していた場所へと行く過程でのことだろう。話題にも出なかったので忘れていた。
「ええ。結界の方はメリッサ様が施したのだけれど、あまりにも簡単に解除されるから驚いていたのよ。」
「俺は基本的に物理的な攻撃手段しか持っていないからな。」
「それなのに悪魔を倒してきたの?もしかして、他にもスキルを····。」
『ほう、何者かと思えば珍妙な奴が現れたものだ。』
ルルアが何かを言いかけた時に割って入った奴がいた。
直接脳に働きかける声。ルルアの仕草を見る限り、彼女にも聞こえたようだ。
どうやら、また人ならざる者に絡まれてしまったのかもしれない。




