第4章 朋友 「Getaway③」
「これは···。」
1時間ほど歩いただろうか。
通路には罠もなく、魔物と遭遇することもなかった。
単調な通路が続き、何度かの階段で上がり下がりを繰り返したくらいで順調な行進であったといえる。
最後に行き当たった場所が、広い階段の踊り場のようなところだったのが想定外ではあった。
対になるように階段がある。一方は上へ、もう一方は下へと向かっていた。
「普通に考えれば上に向かうべきよね?」
下から上へと流れる空気を感じた。ただ、通常は暖気が上がってくるものだが、肌に触れるのは冷たい空気だ。
まるで洞窟の最深部から流れてくるもののように感じた。
「少し慎重に動いた方がいいだろう。まずは上階の様子を確認しに行こうか。」
目的は避難している人たちの脱出だ。
地形的にも上へと向かい、外に出るのが定石だといえる。ただ、嫌な予感がした。
説明するのは難しいが、地階に進めば何かがあるような気がしてならない。
「そうね。」
ルルアがそう言って、先に歩こうとした。
その時に、床に違和感を感じて彼女の肩に触れる。
「足跡がある。」
「え?」
薄らとだが、石造りの床には砂や塵のようなものがあった。その一部分が踏まれて乱れていたのだ。
ランタンの灯りをかざして足跡を確認する。
普通の人間のものよりも大きい。
「これって···。」
魔族か悪魔が通った可能性があった。
足跡は階段から階段へとつながっている。往復したような跡があり、現状ではその何者かが下階に潜んでいるかはわからなかった。
「先に下を確認しよう。」
このまま上へとあがり、もし悪魔や魔族がいて数的に不利となれば、逃走できる先を確認しておかなければ危険だといえた。最悪の場合は挟撃にあう可能性すらあるのだ。
「わかった。」
ルルアは不安そうな表情をしていたが、素直に従った。
彼女には先に元の場所に戻ってもらう方が最良かもしれないが、不安を増長させる可能性がある。
「もし奴らが現れたら、自分の命を守ることだけを優先してくれ。場合によってはフォローできない。」
「うん···。」
ひとりで戦うのは問題ない。不利だと思えば逃走すれいいだけなのだ。しかし、他の者を守りながらというのは難しい。人質に取られなどしたら、救助できないかもしれないのだ。
俺とルルアは、ランタンの灯りを消して闇に目を慣らせてから動き出した。通路や階段がほとんど見えない状態だが、敵に見つかるよりはいいだろう。
空気の流れを読みながら、ゆっくりと足を運ぶことにした。




