第4章 朋友 「Getaway①」
針金の形を何度か変えながら、ようやく解錠に成功した。
レバータンブラー錠は鍵穴の奥に板状の障害物が設置されているため、専用の鍵か道具がなければなかなか開かない。
少し苦労したが、針金の先を鍵に見立てて何度も変形させることで合致したのだ。もし中が錆びついていたり、もっと重たい仕様だったなら他に代替品を探さなければならないところだった。
「すごい。」
錠前師ではないので、性質的に褒められたような技術を持っているわけではない。しかし、傍にいたルルアからは感嘆の声があがった。
そういえば、こちらの世界では錠前師というのは食うに困らない職業だと聞いたことがある。ただ、前にいた世界とは異なり、こちらでの錠前師は鍵を開けるだけではなく造り手も担っているそうだ。
鍵そのものを作るとなると、他の技術が必要となり一朝一夕には成り立たない。どこかの錠前師に弟子入りして、何年もの修行を経てなれるものだ。鍵穴の中の細工はほぼ手作業となるため、大量生産品はほとんどなく一点物が多いという。
錠前師として独り立ちするには資格が必要となる。その道で生計を立てるには、国に認定された錠前師工房に弟子入りするしか道はないらしい。しかも、錠前師を廃業したものは生涯に渡って名簿から除名されことはなく、常住している街を出るだけでも許可がいるそうだ。
錠を開ける技術を持った盗賊があまりいないのは、そういった徹底した管理の成果らしい。
「開いてよかったよ。」
謙遜ではなく、不用意な注目を浴びないために言い訳は必要だろう。
「スレイヤーをやっていて、解錠技術なんて必要なの?」
「魔族が遺跡なんかを根城にしていることがあって、中にはそこの錠を手に入れて使う奴もいる。そこで籠城されたら厳しい戦いになるから我流でおぼえた。」
苦しい言い訳だが、ありえない話ではない。魔族は魔物と違い、知力は人間と同等かそれ以上なのである。強さにかまけて馬鹿な敗北をするものは多いが、そこは勉強ができても社会で挫折するのと似たようなものだろう。
「よくそんな技術を我流で···。」
「錠を分解して構造を理解したら何となくわかるものだ。それよりもここを開けて中を確認しよう。」
あまり細かいことを聞かれるとボロが出そうなので、誤魔化して先を促した。
「あ、そうよね。先を急ぎましょう。」
錠前を外す技術は秘匿すべきものだ。
今回のような非常時はともかく、一般社会では封印した方がよさそうだった。




