第4章 朋友 「救出⑰」
古い建物というのは設計図などの詳細が残っていなかったり、一部が紛失していたりする。
イギリスにあるウェストミンスター宮殿は、1834年に焼失して1860年に30年以上かけて再建された。16世紀から国会議事堂として使われているのだが、最近になって壁に秘密の抜け道があることが発見されたらしい。
火災でオリジナルの宮殿はほぼ全焼して再建されたが、設計図が残っているのにも関わらず今になって発見となったのは、やはり秘密の通路であるからなのだろう。
廊下の木製の壁に小さな鍵穴が見つかりこの通路が発見されたのだが、宮殿関連の1万にも及ぶ文書を調べていて見つかったそうだ。
1950年頃にこの通路の照明設置工事が行われていたようが、それも記録として公にはされていない。非常時に使う抜け道とはそういった扱いになる。
今いる建造物については設計図があるのかどうかもわからないが、教会からつながる通路が定期的に清掃されているところを見ると、非常時の備えとして扱われていたと思える。
しかし、抜け道があるならそれも含めて口伝くらいされていそうなものだが、詳しく知っている者がいないためそこは調べてみるしかないというわけだ。
「どうするの?」
「壁の棚板を端から端まで見て違和感がないか探す。わずかな差でも棚板の間の隙間が大きかったり、小さな穴があれば抜け道があるかも知れない。それで見つからない場合は叩いて音で確認する。他と違う音が鳴るようなら、その先に空間がある。」
「とりあえずやってみるってことね。」
「そうだ。確証は何もない。見つかったら儲けもの程度のものだ。」
「それでも、ここで黙って餓死するよりはいいわ。」
ルルアは精神的にも強そうだ。仲間に引き入れたいところだが本人次第だろう。
「もうひとつ灯りを借りることはできそうか?」
「できるわ。少し待ってて。他に人員はいる?」
「いや、多くなっても仕方がない。」
「わかった。」
ルルアは持っていたランタンを俺に渡して広間に戻った。
俺は向かって右側の壁を奥の方から確認することにする。
杉板ではないが、焼いて老朽化や虫食いを防ぐ処置がされた板張りを見ていく。
表面を炭化させて耐久性を高める焼杉板の手法は、日本の西日本におけるものだ。東日本に広がったのは最近といってよく、そちらの方では古来より墨を塗って耐久性を高める手法をとっていた。近年では海外でも焼杉板の美しさや雰囲気が注目されていたりする。
目の前にある焼き板は杉とは違う木材のようだが、この手法を用いた職人には賛辞を送りたいところだ。
古い造りにも関わらずきれいな状態で残っているため、何かの細工があれば見つけやすいだろう。




