第4章 朋友 「救出⑭」
避難所というべきか、2ヶ所に灯りが設置された薄暗い空間へと足を踏み入れた。
空気が澱んでいる。
それほど狭い空間ではないが、中にいる人々の焦燥感がそうさせているのかもしれない。まるで、末期患者が死を待つだけの病室のようだ。
その中で、ちょこちょこと走り回って人々に声をかけている小さな影が視界に入った。
ぼそぼそと聞こえてくる声には、相手を元気づけようとする労りの言葉が断片的に聞こえてくる。
周囲の暗さに目が慣れると、できるだけ笑顔を見せようとする健気な少女であることがわかった。
あれが聖女候補のメリッサなのだろう。
念のために、ソート・ジャッジメントで周囲の悪意や邪気の気配を確かめてからルルアの顔を見る。
「あれがメリッサ様よ。」
「そうか。」
簡単な返答だけすると、後ろにいるバードからは冷めた目線を投げかけられた。
「大丈夫だ。彼女は命に変えても守る。」
そう言葉を追加すると、ふたりからは意外そうな視線を向けられた。
状況的に敵意を持たれるのは得策ではないと思い、少し大仰な物言いをしたのだ。
だが、ソート・ジャッジメントは、メリッサがクレアと同等の慈愛を持つ存在であることを告げている。
あの少女は今後の世に必要な人間だ。
メリッサに視線を戻すとこちらに向かって来ていた。じっと俺を見ている。
「メリッサ様、ただいま戻りました。トラップやゴーレムを打破ったのはこの者です。他国のスレイヤーだとか。」
「バードさん、ありがとうございます。」
バードにそう言うメリッサの視線は、ずっと俺から外れなかった。
腰を落とし、メリッサと同じ視線になるようにする。
「初めまして。タイガ・シオタです。」
できるだけ優しげな声音でそう言う。
「あなたが···初めまして、メリッサです。孤児ですので家名はございません。よろしくお願いします、天剣様。」
「···神託ですか?」
少し驚いたが、彼女は聖女候補だ。神アトレイクから何かを聞いている可能性は十分にあった。
「はい。魔人や魔族を倒し、人々と教会を守ってくださったことをお聞きしました。あなたなら、この状況に光明をもたらすだろうと。」
オーラのようなものが見えた。
年齢やまだ修行中の身ということもあり制御はできていないのだろうが、そこには紛れもなくクレアと同じ慈愛の光が見えたのだ。




