第4章 朋友 「救出⑪」
「選択というのはどういうことだ?」
「その通りの意味だ。聖女候補の安全を優先するか、危険や犠牲を覚悟の上で全員が助かる道を模索するかだ。」
ふたりは絶句した。
おそらく、意味は理解できているだろう。冒険者や聖騎士なら、命の優先順位もわかっているはずだ。良心がそれを良しとするかは別の話だが。
「言ってる意味は理解できる。しかし、それをメリッサ様に問うわけにはいかない。あの方はまだ幼い。」
「別にかまわないが、あんたらふたりがそれを選択するのか?恨まれるぞ。」
「···かまわない。メリッサ様に重荷を背負わせるわけにはいかない。」
「聖女候補なら、それを試練と受け取るだろう。それに、自分だけ助かりたいと言うようなら、資格はないと思うがな。」
「それは···。」
バードにしても葛藤があるのだろう。
彼は聖女候補であるメリッサの護衛役である。聖女が持つべき慈愛も理解しているはずである。
「ここで言い争っても仕方がないだろう。まずはメリッサ様に会ってから話をしたらどうだ。」
意外なことに、ルルアは冷静だった。
それなりに経験を積んだ冒険者であることと、信者であるからこそ聖女という存在の理想像を持っているのかもしれない。
「しかし···。」
「大丈夫だ。唐突に今の選択を聖女候補に突きつけたりはしない。ただ、そうなった時に彼女の真価が問われる。」
「·············。」
メリッサはまだ聖女候補に過ぎない。
幼いといえど、どういった判断を下すかで彼女の将来は決まる。
俺がここまで干渉する必要はない。しかし、かつてクレアが危険を承知で俺を探しに旅に出たことを思えば、同じような資質はあって然るべきだと思えた。
そして、その資質こそが今後の彼女を支え、多くの人々を救うもののはずだ。
「来て、案内するわ。」
「待てルルア。この男を信用するのか?」
「あなたにとって最優先はメリッサ様だというのはわかるわ。でも、私にとっては避難している人々がどうなるかを考えたい。それに、メリッサ様が聖女様の器かどうかをこの目で確かめたいしね。」
納得しきれない様子のバードを尻目に、ルルアは先へと進んで行く。
「聖女候補の身を案じるのは理解できる。だが、聖女クレアは命をかけて魔人の脅威から人々を守った。メリッサ様もその覚悟を持つ必要がある。もし無理なら、普通の女の子に戻った方が彼女のためだろう。」
「···················。」
バードはその後、一言も発しなかった。
頭ではわかっているのだろうが、傍にいた時間が長く情が移ってしまっているのかもしれない。




