第4章 朋友 「救出⑨」
丁寧な口調で話すと警戒心が薄れるものだ。
特にこの世界では、目上の者と会話するときもフランクなことが多い。
もちろん貴族や王族が相手ではそういう訳にもいかないが、それだけに位の低い騎士や冒険者が相手なら効果があったりする。
「そうか、ショ···タイガさんだったな。悪いが明かりを点けて姿を見せてもらえないか?」
「わかりました。」
そう答えてすぐにライターに火を灯した。
「その服装は?」
「教会で一戦交えて返り血を浴びたので、上衣だけ拝借しました。」
暗闇で見えないふたりだが、息を飲んだ気配がわかった。
「教会でって···まさか、あれと戦ったのか?」
悪魔と戦って無事なことに不信感を抱かれたのかもしれない。
「気配を消すことが得意なので、死角から忍び寄って倒しました。奴らを何とかしないと、ここへの入口を探すこともできなかったので。」
「···倒したって、本当なのか?奴らは魔族以上の力を持っているだろうに。」
「待って。あなた、スレイヤーって言ったわよね。ランクは?」
「いちおうSです。」
「スレイヤーのランクSっていうのが本当なら、不意をつけば奴らを倒せるかもしれない。」
今話しているのは女性の声だ。彼女が弓の使い手なら冒険者の可能性がある。スレイヤーと冒険者の実力差に理解があるのかもしれなかった。
「確か都市伝説みたいなもので、ショタだかシオタだかいうスレイヤーが魔族を素手で圧倒するって聞いたことがある。」
予想とは異なっていた。
おそらくだが、グランドマスターあたりが流した噂を耳にしただけかもしれない。あの人なら冒険者に慢心させないように、そういった噂を流す気がしたのだ。
「圧倒はできませんが、素手で戦ったことはありますよ。」
噂というのは盛られていることが多い。そういったものは酒の席での笑い話に使われたりもする。
それに対して謙虚な事実を伝えると、不思議と人は信憑性を高めたりするものだ。
「なるほど。身体能力が優れていて、それにバフをかけたら可能かもしれないわね。」
違う方向に勘違いしたようだが、否定的な意見が出ない所を見ると悪い方向には進んでいないだろう。
「そんな事が本当にありえるのか?人間が魔族と素手で渡り合えるとか、与太話にしか聞こえんが。」
男性の方は否定的なようだ。
「あなたはスレイヤーの実力を知らないからそう思うのよ。あいつらは人外みたいなものだから、中には殴り合いが強い奴もいておかしくはないわ。冒険者にも素手でオーガと渡り合えるのがいるんだから。」
「いや、その冒険者も十分人外だろうに。」
ふたりがそんな会話をし出したので黙って待つことにした。今は非常時だ。彼らにとってこちらが味方だと思ってくれる要素は十分にある。特に手練だと思わせれば、聖女候補の前に連れて行ってくれると期待ができた。




