第4章 朋友 「救出⑥」
「·····················。」
目の前に現れた鉄扉の錠は、これまでのものより複雑なものだった。それが2箇所にあり、指先の感触だけで解錠するにはかなりの時間を要しそうだ。
錠を外す時は、指先の感覚と共に擦過音に対する聞き分けも重要となる。鍵の種類はこれまでと同じシリンダー式だが、より複雑なものとなっていた。これまではウェーバータンブラー、今回のはピンタンブラーという方式だ。どちらもピッキングという技法によりこれを解錠するのだが、使用している道具は短い針金が2本。これをくの字と直角に折り曲げて作業している。
ピッキングには通常、ピックとテンションを使う。
しかし、こちらの世界でもそれらを所有しているのは数少ない錠前師だけであり、簡単に手にすることはできなかった。
鍵のギザギザとシリンダーのピンの高さが一致すれば簡単に開く類のものではあるが、目の前にあるピンシリンダーは非常に重たいものが採用されている。
無闇に力をかけると針金がすぐに曲がってしまうのだ。
この通路の建造時代を考えれば、いずれも近年になって錠だけ交換されたのだろうと思える。しかし、簡単に開かない対策としてか、ピンが対になった鍵でしか動かないようにできているのだろう。
加えて、暗闇の中での作業は集中するという点では良かったが、手もとが見えないことでデリケートな作業がしにくいといえた。
狭い通路の鍵は掛け金が一箇所しかない上に、あまり強固なものにすると万一鍵を無くした時に解錠できないからとでも考えたのかもしれない。今回の扉は床と天井に掛け金代わりの杭のようなものが出て固定するタイプだと考えられる。だからこそピンシリンダーにも重みがあるとすれば納得ができた。
苦戦しながらようやく1つ目の鍵を攻略する。ダメもとで扉を動かしてみるがビクともしなかった。おそらく両方の錠を開けなければならないのだろう。
小さく息を吐き、もう片方の解錠に取りかかった。
今度は先ほどの半分の時間で解錠に成功する。
扉の向こう側に気配は感じられない。しかし、警戒を緩めるわけにはいかないだろう。
扉を開いた先に、ゴーレムや罠がある可能性は十分にあった。無策で飛び込めば、いきなり攻撃を受ける可能性は崩せない。
端に寄り、ゆっくりと片側の扉を押し開いた。
全開してしばらく様子を見るが、何も起こらない。
扉の向こう側も暗闇は続いていた。




