第4章 朋友 「救出⑤」
明確ではないが、何かが壊れる様な感覚がした。
実際に音が出た訳ではないが、薄氷を踏んで割る感じの微かな違和感。
それが足もとではなく、全身に伝わった気がした。
おそらくは結界。
聖属性魔法だろうが、魔力で構築されたものは俺に触れると決壊する。
侵入者を感知するものか、存在そのものを弾くためのものかはわからない。しかし、今の崩壊は術者にも伝わったはずだ。
足留めや感知が目的ということは、この先に聖女候補者がいるのは間違いないということだろう。悪魔がこの通路の存在を知り、先回りされたのでなければそれは確定事項といえる。
問題は、俺自身も敵対勢力と見なされる可能性だ。
聖職者以外にも騎士や戦闘職の者が難を逃れたことも想像できる。そしてそれが少人数であるとも限らない。そう考えると、カソックを身につけていることは功を奏するかもしれなかった。
念のために後方に追跡者がいないか気配を探る。
今のところ問題はなさそうだ。
この先は前方の気配や物理的な罠がないかも探りながら進んだ方がいいだろう。
聖女候補者と共に冒険者や国の暗部の人間がいれば、結界以外にも何か仕掛けているかもしれない。
また、この建造物に緊急避難用の常設罠がないとも言い切れなかった。
慎重に前へと進む。
少し先を進んだところで足もとに違和感を感じた。瞬間的なもので何の被害も受けなかったが、結界が壊れた時と同じような感覚を部分的に感じたのだ。
魔法によるトラップなのかもしれない。
術式や魔法陣を有機物に刻み、魔力を内包することでそういったトラップを仕掛けることは可能だと聞いたことがある。
こちらも俺に触れたことで未発で壊れてしまったようだ。
煩わしいものではあるが、こういった物が作動するということは聖女候補者の生存の可能性を高めるといえる。
厄介なのはクレアと同じようにゴーレムを出された場合だ。
倒すことは困難ともいえないが、数が多ければその物量に苦労する。狭い空間で壁代わりとなられるとなかなか面倒な障害だといえた。
ただ、ゴーレムが現れるということは、避難した者たちとの距離が近い証明にもなる。
遠隔操作が可能とはいえ、距離には制限がかかるはずだ。
何度か足もとの魔法トラップを踏み壊しながら先へと進む。
また空気の流れが変わる。
明かりを灯すと、目の前には通路幅いっぱいに広がる両開きの鉄扉があった。




