第4章 朋友 「reconnaissance⑯」
「救出に向かいたいという相手は誰だ?」
「······················。」
普通に考えれば主君たる王族だろう。しかし、今の状況を考えれば無駄ともいえる。
ドライな言い方だが、この国はもう終わった。例え国の舵取りをする国王が存命であっても、犠牲を払ってまで救出に向かうメリットはない。
他の国で保護したとして、それが何かを救う結果をもたらせることもないだろう。どちらかといえば、多少なりとも戦力になる目の前の3人を連れて帰った方が、他の者の命を救う結果につながる。
「俺はスレイヤーだ。国に仕えているわけじゃない。王家などに対する忠誠で物を言っているなら、他をあたってくれ。」
冷たく突き放した言葉ともいえる。しかし、実際にどうなのかは別として、血統で玉座にいる亡国手前の統治者のための犠牲など無意味だと思えた。
「王家の人間は···もう無理だろう。あんたの言うように、例え連れ出せても安全な所に行くまでもたない可能性が高い。」
忠誠心はともかく、視野が狭まっている訳ではなさそうだ。
「誰を救出したいんだ?」
「························。」
しばらく無言で睨み合う形になった。
彼らからすれば俺が信用に値する人物なのか、要人の救出を託せる人間なのか難しい選択に迫られているのだろう。
「あんたは信心深いのか?」
長い沈黙の後に、男が口にしたのはその言葉だった。
ピール王国はアトレイク教の信徒が多いと聞いている。そこからの連想で救出対象が何となくだが思い浮かんだ。
「信仰心はない。ただ、アトレイク教の教皇や聖女とは知人だ。そういった繋がりは無下にする気はないとだけ言っておく。」
予想が外れたらそれまでだ。しかし、アトレイク教の関係者なら有益な情報を持っている可能性はあった。
「···聖女様だ。」
「聖女?ピール王国にもいるのか?」
「厳密にいえば、その神託を受けた方がいる。まだその年齢には達していないから、近い将来にそうなる予定だ。」
「無事でいる可能性は?」
「五分五分だろう。その方は教会に見習いとして仕えていた。王城や教会には、緊急時の避難場所として地下にシェルターが存在する。そこは結界が張られていて、短期間なら魔族からの襲撃にも耐えうるもののはずだ。」
その説明を聞いて理解した。
聖女となる者なら、王族などよりも高い尊厳と存在意義がある。
この男は合理的な考えを有しているようだ。似たような職業意識からくる判断基準だといえた。




