第4章 朋友 「karma⑱」
2日間に渡る動作テストを終了した。
マトリックスの操縦については、基本的なものはすべて体に叩きこんだといっていいだろう。
その中で再調整や改良が必要な点については、リストアップしてクリスに伝えておいた。それほど時間のかからない手直しばかりだが、旋回する時に噴射のバラつきがあったのでそちらを優先してもらうようにする。
それ以外については軽微なものが多い。自立させるための底部の形状変更や、チェンジレバーを数センチ延長させるなどといった具合だ。
動作テストとはいえ、マトリックスの完成度は高かった。一度フルスロットルで駆け抜けてみたが、体感値ではリミッターが作動するギリギリまでのスピードに達している。普段と変わらない服装だったため、非常に寒い思いをしたのは言うまでもないだろう。実際に出立する時には防寒着の準備はしておかなければならない。
その後は仕上がった銃器類の試射を行い、照準の調整などをしていった。クリスの理論値で重量バランスや素材の組み合わせが考えられた銃器類は、高い射撃性能を発揮したといえるだろう。唯一、短機関銃でフルオート時の弾づまりが連発したくらいのものである。これについては排莢時に空薬莢が干渉して起こる不具合だと発覚したので、干渉しやすい部分を研磨して仕上げてある。
近接戦で使用するための武具には、ミスリル性のナイフも追加されていた。これは竜孔流を通しやすい素材で、刀剣類を振り回せない狭い場所での実装用だ。刃渡り40cmの大型のものを製作してもらった。
夜になると、俺は連日のように空間収納と対峙していた。
対峙といっても、マトリックスや新しいナイフを収納するためのキーワードを考えてつぶやいているだけである。
マトリックスに関しては収納が可能かもわからないので、先にナイフの方を試してみる。目をつぶってぶつぶつとキーワードを並べ、72回目でようやく収納に成功した。これだけキーワードを連発していると、取り出す時に間違えてしまいそうだ。
ひそひそとしたつぶやきが聞こえてくるのでそちらを見ると、職人たちがこちらを見ながら何かを話していた。
変な目で見られていることは自覚している。ナイフだけでも個室でやれば良かったなと思いながらも今さらである。
気にせずにマトリックスでも同様のことを行う。
およそ30分をかけてマトリックスも収納することができた。
その瞬間に拍手が鳴り響く。
周りを見るとなぜかギャラリーが増えており、マトリックスが消えたことに驚きと称賛の声が続いた。
何ともいえない気持ちになりながらも、マトリックスを顕現させるとさらなる拍手喝采である。
苦笑いを浮かべながら、今回は過去最高の311回目で収納ができたことにげんなりした。




