134話 レイド 魔族襲来⑥
「方角はここから直線上か?」
監視役のスレイヤーがいる方向をスレイドに聞いた。
「はい。8キロくらい先です。」
「わかった。全力で行くぞ。」
そう言うなり、俺は全速力で駆けた。
「え···速っ!」
「うそっ···ついて行けないっ!」
スレイヤーは知らない者であっても仲間だ。そんな者達の誰にも命を落として欲しくはなかった。スレイドとセティが遅れているのには気づいていたが、監視役として二人を残らせるように言ったのは俺だ。窮地に陥らないうちにたどり着きたかった。
急斜面や岩場を無視して走る。
15分もしないうちに邪気の集合体にソート·ジャッジメントが反応した。北に向かっていたが、標的であるオーク達が進路を北北西に向けて動いているのがわかった。
俺は方向を修正してスピードを上げた。斜面を下る勢いに乗り、さらに加速する。
「だめだ。このままじゃ追いつかれる!」
「こんなとこで死にたくないよぅ。」
監視役で残ったケイガンとミシェルは必死になって走っていた。
100体と報告をされていたオークは今や300体をこえてさらに増えている。間違いなくなぶり殺しにされてしまうだろう。だが、村のある方向に逃げれば犠牲者はさらに増えてしまう。何とか時間を稼いで増援を待ちたかった。
「はぁはぁ···もうだめ···だよ。」
ミシェルは魔法士だ。
パーティーの中でも体力は一番低い。監視役として残ったのはパーティーの中で最も攻撃力の高い魔法が使えるからだが、その選択が仇となった。
オーク達が進行を開始したら強力な魔法を撃ち込んで足留めをするつもりだったが、知らない間に後ろから回り込まれて攻撃されそうになった。ケイガンが何とか応戦して難を逃れたが、他のオーク達に存在がばれてしまい、この結果を生んでしまった。
スレイド、早く戻ってきてくれ。
ミシェルを庇いながら、そう心の中で思うケイガンも、数十メートル後方に迫ったオークの大群に自分の死を悟っていた。
見えた。
俺は斜面を高速で下りながら、山の谷間にいるオークの大群を視界に捉えた。
300体どころじゃない。
500近いんじゃないか?
時間を経る度に増え続けるオーク達を見て、やはり何かの罠の可能性が頭をよぎる。
大群の先方には2人の人間が必死で逃げているのが見えた。監視役のスレイヤーだろう。
これはさっさと終わらせるべきだな。
右手を肩の方に回し、バスタードソードの柄を握る。多勢が相手だと蒼龍よりも刃こぼれを気にする必要がないこちらの一択だ。
山の起伏や隊列を考えると風撃無双はあまり効果がない。障害物が多すぎるのだ。
仕方がない。
近接戦上等だ!




