第4章 朋友 「karma⑭」
ハンドルバーの中央にあるスタータースイッチを入れて、マトリックスを始動させた。
エンジン音が鳴るわけではないが、数秒後に振動が出たことによって無事に起動したことがわかる。このあたりはハイブリットカーの感覚に近いのかもしれない。
次にアクセルグリップをゆっくりと回し、推進力となる後部の噴射口から排気のような圧が出るのを確認する。機体がアクセルグリップの動きに連動して前後に揺れた。今の状態でアクセルを回しすぎると、このまま前方に吹っ飛んでいきそうだ。
マトリックスにはスタンドはなく、地面と平行した姿勢で自立している。これは実際に飛んでからの着地に気をつけなければ横転する可能性があった。揚力操作を小刻みに行い、真っ直ぐに降りることが必須といえる。ヘリコプターと同じようにホバリングが可能なので、姿勢はそれと同じようにすればいいだろう。
試運転として、足もとにあるレバーを切り替えて揚力を上げてみた。揚力レベルの変更を行うため、便宜上の名称としてチェンジレバーと呼ぶことにする。
チェンジレバーをひとつ目の段階に切り替えると、ゆっくりとしたスピードで機体が上昇した。車やバイクの一速目と同じで最もトルクを要する部分だ。突発的な力がかかり、急上昇に至らないよう安全面を配慮して調整されているのだろう。
「エージェント・ワン、車やバイクと同じだ。一段階目は浮上を目的としてトルク調整を行っている。あまりその状態を続けると属性魔石の消耗が激しくなる。長時間のホバリングも同様だ。」
「了解した。少しの間だけ動作テストを行う。」
俺はそう言って、チェンジレバーをもう一段階引き上げた。
機体はさらに上昇し、二段階目にして地上から10メートル近くで姿勢を維持する。
アクセルグリップを回した。
タイムラグなしに機体は前進する。徐々にアクセルグリップを回していくことで、ダイレクトにトルクを発生させて加速した。
アクセルグリップを緩めて左手の近くにあるトグルスイッチで旋回を試みる。惰性があるため、車やバイクよりも船に近い挙動といえた。
ヘリコプターなら鋭敏な動きをするし、セスナや戦闘機ならもっと大回りな印象だ。
何度か旋回テストを行った後に、チェンジレバーを三段階目に上げてさらに上昇する。
アクセルグリップを回して加速を検証した。直進に関してはバイクの感覚に近い。ただ、高度によっては加速度はそれ以上だった。




