第4章 朋友 「karma⑨」
「乗員は5~6名といったところか?」
南に向かうための人員としてその程度は必要だろう。しかし、それだと大きな乗り物となり、製作にも時間がかかりそうだった。
「1~2名でかまわない。」
「そうか。偵察だけして転移で戻るから、片道切符でいいというわけだな。」
こういった任務の場合、片道切符という言葉は禁句だと思うがその通りだった。
「そうだな。できるだけ工期を短くして欲しい。」
「ふむ。かまわないが、推定距離にすると4000km以上はあるぞ。小さな機体なら安定性に不安があるが。」
「全長を伸ばして直進安定性を高めるのではダメか?」
「理論は正しいが、気流なども関係するから低空飛行しかできないぞ。山脈などもあるだろうし、高度10000mは確保したいところだが。」
「目的地までの地形を確認した方がいいな。少なくとも馬車や徒歩での往来があるようだから、記録を探ればもっと高度を抑えられるかもしれない。」
大公あたりを通じて確認してもらうしかないだろう。教会本部に詳細が記されていればいいが、広域の詳細地図などは一般に公開されていない。
「弾道ミサイルでも高度は数百km以上だぞ。」
だから弾道ミサイルから離れてくれ。誰もミサイルを作れとは言っていない。
「与圧室も空調もないから高度を求めても仕方がない。セスナ機くらいのスペックでかまわない。」
「セスナ機もピンキリだ。上昇限界は4000~8000mといったところか。通常巡航速度なら120kt···20時間はかかるな。」
「航続距離に問題はないだろうから、耐久性と速度を指標にしたらどうだ?可能なら180ktは欲しい。」
ktというのは船や飛行機の速度単位でノットだ。1ノットは毎時1.852kmとなる。180ktなら時速333kmで、日本最速の東北新幹線を凌ぐスピードである。
「それならば与圧室はいらないだろうが、ひとつ問題があった。」
「なんだ?」
「キャノピーに使える素材がない。」
キャノピーとは風防のことだ。操縦席を覆う透明な窓と思えばいい。軽飛行機ならアクリル樹脂やポリカーボネートなどが多いのだが、こちらの世界にはそれがなかった。
「セルロイドは作れないか?あれをガラスの間に挟めば、240kt辺りまでは余裕で耐えられるはずだ。」
240ktは時速500kmに相当する。セルロイドは前の世界における史上初の高分子プラスチックで、1800年代半ばに開発されたものだ。




