第4章 朋友 「karma⑦」
まだ様々な課題があった。
最悪を想定すると、万単位の悪魔擬きがいる。
魔人となり、悪魔王の血を与えられた死の軍団ともいうべき敵への対処。こちらは今の状況では、対抗するのはかなり厳しいといえる。
クリスに依頼した武具が完成したとして、どの程度対処できるかは相手の数次第だといえるだろう。
真っ向勝負は避けてゲリラ戦を行い、少しずつ削るしか方法は思い浮かばなかった。
それに、蒼帝ブラールからの情報をアッシュが共有してくれたが、断続的な転移を行うにはルートが不明だということだ。加えて、この大陸にあるかもしれない悪魔王の体についても同様とのこと。
単体なら問題はないかもしれないが、それとテトリアが結びつくと手強いといえる。またあの攻撃を無効化する剣の類を持ち出されると、勝てる保証はなかった。
移動手段に対抗策。
どれをとっても後手に回っている。
だからと言って放置してもいい問題でもなく、今ある戦力で何とかするしかない状況だ。
当初の予定通り俺が先行して敵の戦力を探るにしても、転移ルートが確立できなければ無駄に時間を消耗する。
「エージェント・ワン。聞こえるか?」
インカムからクリスの声が聞こえてきた。
「どうした?」
「前に教皇から預かった魔石の件だ。可能ならすぐに来てもらえないか?」
異様に落ち着いた声でクリスがそう言った。
こういった時のクリスの声は、何か大きな発見や発明をした時によく聞いたものだった。
「わかった。すぐに行く。」
俺はそう言って、転移で移動した。
「ナイトラス・オキサイドはわかるか?」
開口一番にクリスがそう言った。
「亜酸化窒素のことか?」
「そうだ。」
亜酸化窒素とは、窒素酸化物の一種である。人が吸引すると陶酔させる効果があり、笑気ガスとも呼ばれている。医療行為で全身麻酔に用いられたり、食材をムース状に加工するエスプーマと呼ばれる調理法にも使われるものだ。
「それがどうかしたのか?」
「教皇から預かった魔石を調べた。大きい方は、前に聞いた通り聖水に浸けて悪意や邪気を打ち消す用途に使えるものだ。それと対になる小さい方の魔石から一酸化二窒素、要するにナイトラス・オキサイドを抽出することができた。」
一酸化二窒素は酸化二窒素とも呼ばれる。組成式はN2Oで亜酸化窒素と同じものだ。ナイトラス・オキサイドはその英語名である。




