第4章 朋友 「karma①」
以前にも味わったことがあるような不思議な感覚。
自宅のベッドで就寝したことは覚えている。
となると、これは夢か幻想のようなものだろうか。
確か、最初のテトリアとの戦いの後に、別の大陸に飛ばされて神威術を使えなかった頃に似たような経験をしたのだと思う。
あれは再び神威術が使えることを、神アトレイクが半覚醒状態の中で教えてくれたのだった。
今回も同じなのか?
だとすると、何を伝えようとしているのか。
そう感じはしたが、一向に声は聞こえてこなかった。
風景が見えるわけでもなく、ただ真っ白な空間を漂うような感覚だけしかない。
しばらく、無としか表現出来ない時間が流れる。
突如、視界に映像のようなものが広がった。
黄金に輝く竜が空を駆け抜ける。
麒麟といわれる神獣に似た存在が大地を疾走する。
そして、次には人型であっても人間とは異なる存在が、悪魔を圧倒的な力でねじ伏せていく。
これは太古の記録なのだろうか。
先の2つはおそらく先々代と先代のグルルなのだと思う。
では、最後の人型は何者なのか。
猛々しくもあり、相反して静謐ともいえる存在。
細身ながら屈強な体を持ち、この世のものとは思えない美を持つ外見。
固定観念からか、それが堕天使ルシファーであり、天魔ディアブロではないか考えてしまう。しかし、確たるものは何もない。
これは神アトレイクが見せているのだろうか。
それともグルルの意志によるものなのか。
もしかしたら、単なる自分の妄想なのかもしれない。
不確定な情報が起因して、非現実的な何かを自らイメージしているだけなのかもしれない。
曖昧なものはただの夢として処理すべきだ。
本能がそう告げていた。
視界が閉ざされて、また何もない真っ白な空間だけが広がっている。
『あの時の契約をおぼえているか?』
神アトレイクの声がした気がする。
「あの時の契約とは?」
すぐに思いあたらずにそう聞き返した。
『等価交換の話だ。そなたは聖女クレアの姉を救うために、自らの命を差し出すと言ったであろう。』
そうだった。
確かにそのような会話をしたのを覚えている。
「確かにそう言った。それを今履行しにきたのか?」
『そなたは自分の命を捧げると言ったのだ。だから、少し存在を弄らせてもらった。等価交換で差し出された命に異なる力を付与したのだ。』
「······························。」
頭の回転が追いつかない。
等価交換で命を差し出す代わりが、逆に力を与えられたということなのだろうか。
『特異な能力と共に天命を背負ってもらった。』
「それはどのタイミングでの話だ?」
そこから先は何も覚えていなかい。
気がつけば朝だったのだ。




