第4章 朋友 「revisit⑰」
お騒がせ男であるアッシュを執務室に放り込んだ。
建物の外に出ると、敷地全体を包む障壁が発動するところだった。
スレイヤーギルドは、魔族が襲撃した際の緊急避難所となるように障壁を張るためのシステムを導入している。今回は街への被害を抑止するためにそれを起動させたようだ。
続いて、マルガレーテが二重の障壁を展開する。ギルドの障壁だけでは心もとないと感じたのだろうが、それだけ本気度が高いということだろう。
彼女たちが本気で魔法を放てば、汎用レベルの障壁などそれほどもつものではない。しかし、そこまでするほどの模擬戦ともなると、観戦するスレイヤーにもケガ人が出そうなものだが、マルガレーテはそれについては無関心なようだ。おそらく、戦いに身を投じる者であれば、自分で何とかしろとでも思っているのだろう。それについては俺も同意見だが、一つ気になることがあった。
「誰か建物にも障壁を張ってくれないか?近隣への被害はこれで防げるかもしれないが、下手をするとギルドの建物が消し飛ぶぞ。」
近くにいたスレイヤー達が俺の言葉を聞いて一瞬惚けた表情になり、すぐにその意味に気づいてバタバタと動き出した。
「障壁を建物に展開して!」
「俺たちにも障壁を張ってくれ!」
「ここにいたらヤバくないか!?」
口々にそんなことを言いながら慌ただしくするスレイヤーを見て、マルガレーテはため息を吐いていた。
「少し考えものですね。平和ボケしていたら、自分の命だけではなく大事なものまでなくしますよ。」
マルガレーテの言葉が響き渡ると、スレイヤー達は何ともいえない表情をしていた。事実を突きつけられてそこに初めて気づいたのかもしれない。
マルガレーテなりの優しさと厳しさが入り交じった言葉だが、アッシュや俺ではこのような形で問題提起は出来なかったに違いない。
人を管理する器というものは、適性や経験の有無に関わる。そういう面でいえば、アッシュや俺はプレイヤーの枠でしかない。
「ありがとうございます。管理する者としてお恥ずかしい限りですね。」
ギルドの建物から出てきたガイウスとリルが、マルガレーテにそう声をかけた。おそらくギルドの障壁を最初に起動させたのは2人なのだろう。そういった面で、彼らも管理する側の器である。
「かまいません。タイガ様やアッシュ様のような強者がいるのでは、気が緩むのも仕方がないでしょう。ただ、今後は自らが率先して考え動かなければ、不要な犠牲が出ることを認識させた方が良いかと思います。」
部下などには厳しいマルガレーテだが、視野が広く的確な指示を出す面はやはり将の器だといえた。




