第4章 朋友 「revisit⑨」
「追加で近接戦用の武器も頼んで良いか?」
「かまわないが、既に持っている刀剣の類は、今の鍛治師に頼んだ方が良いのではないか?」
「刃物に関してはそうだ。ナックルダスターが欲しい。」
ナックルダスターとは、いわゆるメリケンサックのことだ。ブラスナックルとも呼ばれ、拳にはめて使う殴打用の武器である。
「悪魔と殴り合いでもするつもりか?」
「そうだな。先日の戦いで、備えとしてあれば良いと感じた。」
「ふむ。竜孔流を流して使うということだな?」
さすがはクリスだ。察しが良い。
「ああ。伝導率の高い素材で、剣を握るのに邪魔にならないものがベストだ。」
ナックルダスターは拳で握り込むため、内側の構造がどうしても剣の柄を握る際に邪魔となる。こちらで主流の籠手ではかさばって動きを阻害するし、日本の甲冑のようなものでは殴打に適さないのだ。
「ただ手袋に編み込むだけでは強度の面で不安があるということだな。」
「できれば丈夫で軽量なものが良い。」
「わかった。何か考えてみよう。サイコガンのように何か撃てるようなものにしておこうか?」
忘れていたが、クリスは日本のSFコミックが大好きだった。
「それはいらない。」
「そうか、腕に内蔵すると良さげだが。」
「自分の腕でやってくれ。」
冗談じゃない。
こいつのアイデアを素直に受け取ったら改造人間にされてしまう。
「残念だ。ターミネーターのように···。」
「いらん。」
ターミネーターのようにの続きが気になったが、たぶん骨格を合金に換装しようとでも言うのだろう。
こういった会話は、じゃれあいのようで傍目から見たらおもしろいのかもしれないが、クリスはたぶん本気だ。ノリで受け入れたら、知らない間に麻酔を打たれて手術台で目が覚めるということになりかねない。
今の状況では頼りになる存在ではあるが、奴がマッドサイエンティストであることを失念していた。
「そうか、本当に残念だ。」
残念なのはおまえの頭だ。
「大丈夫だろうが、依頼した武具に余計なギミックはつけるなよ。相手が悪すぎるから、ほんの些細な阻害要因で命を落としかねないからな。」
「まぁ、仕方ない。]
心底残念そうな表情を浮かべるのはやめてくれ。
こちらには不安が募るだろうが。
「猫だまし効果のあるヘアバンドなど···。」
「いらんわ。忘年会のネタか!?」
因みにエージェントの組織に忘年会などはなく、俺のツッコミはクリスに理解されなかった。




