第4章 朋友 「revisit⑦」
「これが天魔だとすると、魔族が崇拝しているのもそれということになりますね。」
「すべての魔族がそうかはわからないが、ここにいた魔族はそうなのではないかと思う。黄竜いわくは天魔は相当な時間に渡って姿を消しているらしく、今も実在するかはわからないらしいがな。」
「今ままでこの祠のようなものを大切に維持してきた魔族が、遺跡の監視を長年に渡って行っていたり人に刃を向ける行為をしてきたことを考えると、ルシファーの伝承もあてにはならないと思えますね。」
マルガレーテらしい感想だと思えた。
かつて創造神が人々の傲慢さに激怒して根絶やしにしようとした。意に逆らったというのであれば、そのルシファーを崇拝する魔族の行いは矛盾していると思われる。
経年で魔族が代替わりしているとしても、根底としてルシファーが人間の味方であったのなら魔族も然りということだろう。しかし、俺たちの知る魔族は、人を劣等種のように思っている。やはり伝承とは違う存在ということだろうか。
「俺はかつて悪魔と敵対していたが、魔族というものはルーツが不透明なものだと聞いている。」
ファフがそんな言葉を挟んできた。
「ルーツが不透明というのは?」
「これも伝承のようなものだが、魔族はもともと人間から派生したものだという話があった。思想云々で悪魔と交わった人間が変異した存在だと。具体的なことはわからないが、魔族にも様々な思想があり、人間に無関心なものもいれば糧とみなす輩もいるそうだ。」
「かつてのファフが悪魔と対峙していた時の魔族はどうだったんだ?」
「今と同じように悪魔の下僕となる奴もいれば、傍観する奴もいた。それだけに見極めが厄介で、結局は人の敵と見なして対立することが多かったな。」
魔族も人と同じで、各自の思想により異なるということか。
「黄竜はルシファーが転生している可能性があると言っていた。」
「転生だと?」
俺は神アトレイクがルシファーと同一である可能性も含めてその話を打ち明けた。
「一つの可能性として、テトリアがルシファーの転生した姿であったかもしれないということだ。」
「それは···タイガ様もそうであるかもしれないという推論ですね。」
「そうなるな。」
2人がどういった反応を見せるか興味深かった。
「自我をなくしているとしても、ルシファーが実際はどういった存在だったかでその推論が正しいかどうかは判断がつきにくいな。」
「そうですね。転生した存在とタイガ様が被るなら、ルシファーは伝承通りの思考を持っていたと思えます。」
ファフもマルガレーテも、否定とも肯定ともつかない反応を示した。
「それは、魔族の俺に対する反応に何の違和感もないからか?」
「そうだ。もしルシファーが現代に転生しているなら、魔族もその存在に対して何らかの反応を示すはずだと思える。」
仮にルシファーが人間に転生していたとしても、特別な何かで魔族もその存在を知るということか。
「それは悪魔にも同じことが言えるのではないでしょうか。少なくとも、タイガ様はグルルとしての存在以外の反応は示されていないと思いますよ。」
客観的な意見としてそう言われれば、少し気が晴れた気になる。
「ということは、神アトレイクが同一の存在か、邪神シュテインの正体がルシファーである可能性の方が高いということなのかな。」
「おそらくその説の方が有力なのではないかと思います。」
マルガレーテの意見にファフも頷いていた。
実際のところはわからないが、あまり気に留めても仕方がないということかもしれない。
ただ、黄竜もまったく根拠のない話をしていたわけではないだろうから、頭の片隅には入れておくことにした。




