第4章 朋友 「revisit②」
わざわざシニタを訪れてクリスの所に行ったのは、元の世界の存在である彼を見てこちらの世界での理不尽から逃げたかったのかもしれない。
エージェントという職務を通じて忌避していたことが、こちらに来てからは遠い出来事だと錯覚していた。
この世界にも、個人的に目を背けたいことがない訳ではない。それがわかっていたにも関わらず、黄竜に聞かされた内容が俺を現実から逃避させるような心理状態に追いやっていたのだ。
こういったことが心の弱さであり、矛盾したことに自分もまた普通の人間なのだと安堵させた。
食事を取りながら屈託なく笑うソルや、ことあるごとに心配りをしてくれるクレアとクリスティーヌと接しているうちに、気持ちの乱れが解消されていくことに気がついた。
現金なものと言われればそれまでだが、人の自然な笑顔を見たり会話を交わすことで壊れかけた心が修復されていくように感じる。
やはり、こういった時間は大切にしなければならない。
「良かった。少しは気が紛れたみたいだね。」
ソルがニッコリと笑い、俺にそう言った。
「ああ、ありがとう。」
ホンマにええ子やなどと思いながら、気持ちを切り替えた。
自分の運命などどうでも良い。
この笑顔や日常というものは守らなければならない。
たとえ、自分が踏み込んではならない領域に至ったとしても、それが必要なことなら選択すべきだと思った。
そう、自分が理に反する立場になったとしても。
翌日。
再び魔族の占有地だった場所を訪れた。
遺跡まで転移して昨日から変化はないかを確認するが、そちらは杞憂に終わったようだ。
遺跡にはマルガレーテの結界が張られたままだった。
昨日同様に同行してくれたマルガレーテとファフと手分けして、未探索地を調べていく。
すぐに成果は上がらなかったが、3時間ほど調査を進めているとやがてファフが集落のような場所を発見した。
すぐに合流して少し離れた位置から視観する。
「高い木々に隠れて上空からは見えないように配置されているな。」
「ああ、それにツリーハウスのような建て方をしているから目立たない。」
巧妙に外部の視線から閉ざされた住処といえるだろう。
これまではこの辺りを探索するような者はいなかっただろうが、上空から見るだけではすぐに見つからないはずだ。
魔族の性質を考えると、隠蔽するかのように建物が並んでいることに違和感を覚えるが、何かの意図があるのかもしれなかった。




