第4章 朋友 「prepare oneself for battle②」
まだ何かを解説しているクリスを無視して、ざっくりと目を通しただけだった羊皮紙に再度目をやる。
状況に応じた応戦が出来るようにと一通りのバリエーションがあり、そのチョイスも優れたものだと感じられた。
自動小銃や使い捨てのロケットランチャーなどもラインナップされているので、対人や対魔族であれば心強いものばかりといえる。
ただ、相手が悪魔であった場合は心許ない。
9mmの短機関銃などは、大型の拳銃弾と同じで火力も非常に高い。単独の相手なら過剰ともいえるものだろう。しかし、障壁や硬化を打ち破り、相手に致命傷を与えられるかといわれると難しいものがあった。
HGー01はゾウを仕留めるだけのストッピングパワーを持っており、単発毎に竜孔流を纏わせることも可能だ。それと比較した場合、毎分数百発を連射するような自動小銃は、装弾数によっては数秒で弾切れを起こす。そして、それだけの速い回転に竜孔流を乗せることは難しい。とはいえ、HGー01と同じ50口径弾をオートで連射させるのは非現実的過ぎた。銃身が耐えられず、衝撃によるブレを抑えることも厳しいと言わざるを得ないのだ。
竜孔流をあらかじめ弾頭に充填することができれば別だが、それは性質的に難しい。そのままだと、悪魔を相手に戦う場合は牽制にしか使えないといえた。
ロケットランチャーに関しても同じだ。魔族や魔物に有効でも、悪魔については瞬間移動で回避される可能性が高い。また、直撃したとしても、障壁を打ち破れるかといわれると消極的にならざるを得ないだろう。
俺は、クリスが吐く独演解説が切れるタイミングを見て口を挟んだ。
「魔族が相手ならこれらでも良いが、悪魔には通じないぞ。どちからというと、単発や二連装でもかまわないから600か700のニトロエクスプレス弾が使える銃が欲しい。」
ニトロエクスプレス弾とは、サファリハンティングで使われる類の強力なライフル弾だ。600や700というのはそれぞれに口径を表し、HGー01よりも大口径の60口径や70口径となる。
「ふむ。では、AMRー01よりも取り回しがしやすいように銃身を切り詰めよう。」
AMRー01は50口径だ。それよりも大きなニトロエクスプレス弾は、遠距離射撃よりも短中距離で使用するため銃身は短い方が良い。
「それが可能なら助かる。あと、9mm短機関銃に使う弾薬を、ハイドラショック・ディープと同じようにできるか?」
ハイドラショックは、最強クラスのストッピングパワーを持つホローポイント弾だ。ホローポイントは、弾頭の先端に穴を設けることで着弾時に拡張して破壊力を高める構造となっている。ハイドラショックはさらに穴の中央に芯を設けて、同時に貫通力も高めることに成功している。ディープはその改良版だ。
「対人に使うと跡形もなく消し飛ぶぞ。」
「人には使わない。対悪魔用だ。」
「良いだろう。芯には高い硬度のものを使おう。」
恐ろしい話をしているものだと、ふと思った。
対人相手に使う事も量産させる気もない。しかし、暴徒鎮圧用に多用される短機関銃が、あまりにも非人道的なものになってしまう。
それだけの火力がなければ悪魔には対抗できないとはいえ、こんなものを開発した向こうの世界をこちらの住人達はどう思うのだろうか。
いや、それの扱いに長けた俺がそう思うのは、今さらのことなのかもしれなかった。




