第4章 朋友 「who the hell are you⑱」
スレイヤーギルドの街に戻った。
マルガレーテとファフを宿泊するホテルへと送り、俺は自宅でシャワーを浴びてシニタへと向かう。
黄竜の話を頭の中で整理しながら、懸念事項を片隅に追いやる。
考え、悩んだとしても何かが変わるわけではない。直近でやらなければならない事に集中するべきだろう。
黄竜から聞いた内容に、俺自身の存在意義のようなものがあった。考えようによっては、人としての領域を超えている。しかし、こちらの世界での見聞を思い起こせば、それなりに布石があったといえる。無意識に目を逸らしていたこともわかっている。
今回もまた、直視せずに蓋をしようとしていた。
誰しも認めたくない事実というものがある。それは、俺自身も例外ではない。
歩きながら、自分に対して苦笑いを浮かべていた。
何を恐れている。
そう思った。
自身を客観視すれば、これまでも普通の人とは外れた人生を送ってきたのだ。今回も度合いは違えど、同じことだと言い聞かせた。
俺が何者かを決めるのは自分次第なのだ。
教会本部に入り、クリスがいる客室に向かった。
彼は武具を含めた新しい魔道具の具現化のため、作業に没頭している。
部屋に入ると、羊皮紙にラフな図面をしたためているのが見えた。
部屋中に同じような羊皮紙が溢れかえっている。中にはよくわからない計算式で埋め尽くされたものも見受けられた。
一心不乱に作業しているクリスを横目に、俺は腰をおろせるスペースを作って座った。
この男はブレない。
無表情でペンを動かし、時折目を閉じて思考に耽っている。そこに意思の揺らぎのようなものはなかった。
出来ること、やりいことに集中する。
俺もそうすべきなのだと思った。いや、わざわざそれを意識する必要があること事態が、精神的な余裕のなさを表しているともいえる。
深く息を吸い、ゆっくりと時間をかけて吐き出した。
「珍しいな。」
クリスがこちらを見ていた。
「ん?」
「悩んでいるように見えるが、そういった表情をする奴はだいたい早死にする。」
彼は無表情にそういった。
「そうだな。」
「らしくないといえばそうだが、人間らしくなったじゃないか。」
「どういう意味だ?」
クリスには冗談を言っている雰囲気はなかった。
「エージェントとしての君は、ユーモアはあったが機械じみていた。ああいった職業に就いていれば、それはある意味で理想なのかもしれない。」
「···················。」
「しかし、今は職業的に動いている訳ではないだろう。気を抜くとすぐに命を落とすだろうが、そういった弱さ見せるようでないと他人は動かない。」
「心理学も修めていたのか?」
「どちらかというと脳科学の分野だろう。」
「どう違うんだ?」
「心理学は実験的、統計学的なものだ。脳科学は脳そのものを科学的、物質的に検証する。君が命を落としたら、ぜひ解剖して調べたいものだ。」
俺は声をあげて笑った。
この男は本当にブレない。精神的な強さは俺なんかよりも上なんじゃないだろうかと思った。




