第4章 朋友 「who the hell are you⑩」
宝珠のある部屋を出ると、正面は壁で左右に通路が別れていた。
通路幅は3メートル程しかなく、天井高も同じくらいだ。
左右共にその先で軽くRを描いて曲がっている。
「二手に別れるか?」
ファフが言うように、効率を重視すればその方が良かった。しかし、通路を見てある予感が浮かんだ。
「いや、この通路は先で繋がっているんじゃないかな。」
「繋がっている?円形に通路が走っているということか?」
「あくまで推測だが、さっきの宝珠のような部屋が通路に沿って続いている気がする。」
ファフがはっとした顔をする。
「邪気を発する宝珠が、円形に配置されているということだな。」
「たぶんな。それと、その宝珠の部屋に囲まれた中心に、咆哮の主がいるんじゃないかと思う。」
「なるほど。邪気の強さから、宝珠が複数あるのは間違いないだろう。それに、この通路はどちらとも先で同じ方向に曲がっている。言われてみればその可能性が高いな。」
「その推測が当たっていたとして、配置された宝珠の中心にいる存在は何だと思う?」
宝珠単体ではそれほどでもないが、数が増えればその分だけ邪気の強さは異常なほどに高まるはずだ。
そんな宝珠に囲まれた存在とは、何者かを想像するのも難しい。これだけの邪気に包まれている事を思えば、仮に普通の竜種だとしても正気を保つのは困難だろう。
それに、外でのウォーウルフや遺跡内にいた魔物もすべて凶暴化し、能力値が大幅に上がっていたように思うのだ。
「凶暴化、それに強化しているか。あまり想像したくはないな。」
「ただでさえ厄介な竜種だとして、邪気の影響を考えると簡単に倒せる相手とは思えない。だったら、先に宝珠を一つずつ破壊して回る事が先決だろう。」
「なるほどな。そうなると、不測の事態に備える意味でも一緒に行動していた方が良いな。」
ファフがいう不測の事態とは、別行動中に魔物に囲まれる可能性のことだ。最悪なのはどちらかが力尽きた場合、前後から大量に押し寄せてくる魔物に蹂躙される可能性すらあるのだ。
それに、宝珠を破壊できるのは俺しかいない。ファフでも可能かもしれないが、物理的な破壊では相当な労力が必要になるかもしれなかった。
「そういうことだ。」
「どちら側から行く?」
俺は少し考えた。
どちらから行っても同じ結果となる気もしたが、ある法則を思い出した。
「右へ行こう。」
「わかった。」
ファフは特に疑問を持たなかったようだが、験担ぎのようなものだ。
地球では、回転の法則として時計回りは放出、半時計回りは吸引を司っている。
北半球の場合、台風や低気圧は半時計回りとなるのだが、その影響として酸素や気圧を吸引する作用かある。低気圧の時に人が体調不良を起こしやすいのも、これに起因するといわれているのだ。
ここでも同じ効果だとすると、邪気が放出されている現状から吸引する方向に向かうには、半時計回りの方が良いのではないかと安易に考えたからだ。
ただ、実際には何の根拠もなく、俺の気休めでしかないのかもしれない。だから験担ぎのようなものなのだ。
宝珠を破壊することで邪気が暴走する気配がなかった事から、まったく因果関係はないのかもしれない。しかし、迷うような選択をする場合は、少しでも成功確率を上げるための理由付けをするのがエージェントとしての習性かもしれなかった。




