第4章 朋友 「who the hell are you⑨」
モンスターハウスらしき広場から出て、次の階層へと至った。
扉のない10メートル四方程の部屋に入る。
敵らしきものはいないが、真ん中に据えられた台座に宝珠が置かれていた。
大きな物ではない。
宝珠に埋められた石は黒く、そこから邪気が放出されている。
遺跡から漂っている邪気の発生源とも思えるが、部屋を漂う邪気の強さを考えればこれ単体で充足している訳ではないだろう。
「魔力や不可思議な力は感じるか?」
ファフにそう尋ねると無言で首を振る。彼女の表情から、邪気を間近で受けるのが不快であると察した。
何かの罠にも見えなくはないが、そういった力や物理的な形跡はないと判断できる。破壊した途端に魔物が雪崩れ込むという可能性もあるが、出入り口は正面と後ろの2箇所だ。
それほど広い間口でもないので、最悪の場合でも二手に分かれて対処できるだろう。
壁や床から何かが射出されたりするような仕掛けも見当たらず、天井が落下したり床に穴が開くというトラップもなさそうだ。
念のため、ファフには入って来た通路側まで下がってもらった。
竜孔を活性化させ、宝珠を破壊するための竜孔流を流し込む。
ピシッ!
手で触れる前に、宝珠に埋めこまれた石は竜孔流の波動であっけなく割れてしまった。
少しの間様子を見るが、何かが作動するような気配もない。むしろ、邪気が多少薄くなったような気がする。
拍子抜けするほどあっさりとしたものだが、よくよく考えればここに至るまでの魔物に対処できる者は少ない。さらに、宝珠を破壊する事は普通の魔法士にとっては困難な事だと思えた。
この種の宝珠はこれまでに何度か見たが、目の前のものは魔力を一切持っていないのだ。物理的な強度がどのくらいかはわからないが、竜孔流でなければ破壊するのは難しいのかもしれない。
「大丈夫か?」
ファフを見ると額に薄らと汗をかいていた。
「ああ。嫌な邪気だ。タイガはよく平気だな。」
「不快なのは同じだ。グルルの力で少し耐性があるのかもしれないな。」
グルルは中性的な属性だ。
魔法の属性と同じように、相性の問題で単独属性のファフよりも耐性があるのかもしれない。
「少し邪気が和らいだ気もするが、この宝珠は複数存在するのではないか?」
「そう思う。邪気の発生源の一つに違いないだろうが、幾つかの宝珠が連動して強い邪気を発して···。」
そこまで話した時に、これまでにも何度か聞いた咆哮が耳に届いた。
かなり近い距離に感じる。
邪気が少しでも和らいだ事に反応したのかもしれない。
「距離が近いのもあるが、声に強みが増したように思わないか?」
「そうだな。あれと戦うとなると、厄介な気しかしないがな。」
「確かに。」
状況を悲観しても仕方がない。
俺たちは正面にある出口へと向かった。




