第4章 朋友 「berserkr⑮」
超音波が弾性振動衝撃波なら、理論上は同じような高振動で相殺できる。
結界が発しているのが超音波でなければ別の手段を考えなければならないが、試してみる価値はあるだろう。
問題はどうやってその高振動を生むかだが、それについては少し考えがあった。
「2人は少し距離をとって、こちらから視線を逸らせといてもらえないか?」
「何か方法があるのですか?」
「ちょっと試してみたい事がある。」
「何か危険な事をなさろうとされているのでは?」
「いや、そうでもない。」
「目を逸らすというのはなぜだ?」
「···それは聞かない方が良いな。」
「「··················。」」
2人とも怪訝な顔をしていたが、やがてゆっくりと遠ざかって行った。
危険な事は何もない。
ただ、今からやる事は人に見られる訳にはいかなかった。
主に俺自身の尊厳のために。
チラッと2人を見ると、木々が生い茂る所まで後退して後ろの方を向いていた。
俺は竜孔を活性化させて、第五の位置に集中的に竜孔流を送り込んだ。
右足を前に出し、傾斜姿勢をとる。
右手を前に伸ばして肘を折り、平手を首に直角になるようにかざす。
下顎を突き出して集中力を高めた。
頃合いを見計らって発動のキーワードを放つ。
「アイ〜ン!」
2度目のレジェンド降臨だ。
声帯を通した竜孔流は、相手を威圧で機能停止に追いやる。効果はおそらく、高振動を伴った裂帛の雄叫びだと考えていた。
流石に人前では見せられないが、2人は視線を逸らしてくれているはずだった。
チラ見すると、2人とも顔に掌を当ててこちらを見ていた。
指の間からこちらを見ていやがった。
動揺しそうになる心を抑え、アイーンを続行する。
これで成功しなかったら、ただの変人じゃないか。
俺はさらに集中力を高めて、持続的にアイーンを放った。
結論から言おう。
アイーンは不発でした。
結界全体が震えた気はしたが、その効果を打ち破るには至らなかったようだ。
そっと2人の方を見る。
サッと体の向きを変えられた。
俺は何か大事なものを無くしてしまった気がする。
やらなきゃ良かったと思いつつも、結界がわずかでも反応したのを見て理論的には間違っていないと次の手段を講じる。
羞恥心で身悶えしそうでも、人は前に進んでいかなければならない。ある種の現実逃避をしながら、俺は竜孔をさらに活性化させた。




