第4章 朋友 「berserkr⑦」
ビルシュが各国との通信による会談を始めた。
ただ、先方も国主ともなるとすぐに会談に応じれる訳もなく、緊急事態だと告げても事はなかなか円滑には運ばなかった。
場合によっては、三国全ての国主に話が通るまで数日間を要する可能性すらある。
「先に魔族の占有地を調査する。そちらの件に関しては、他国からの干渉を受けるものでもないだろう。」
そう伝えて執務室を出ようとした。
「その前に、君に渡しておきたい物がある。」
「渡しておきたい物?」
「アトレイク教に伝わる神器だ。とはいっても、それ自体が何かの効力を発揮する訳じゃない。高い技術や知識がいるけれど、加工すれば大きな支援になるはずだ。」
そう言うビルシュに促されて、教会本部の地下へと出向いた。
地下の最下層にある保管庫とおぼしき部屋の前に立ち、ビルシュは結界の解除を行った。
「この結界はエルフに伝わる秘術だから、教会では僕にしか解けない。」
この階層に至るまでにも、高位な結界が幾重にも張られていた。
「悪魔王の宝珠が保管されていた部屋にも同じ結界を張れなかったのか?」
「不可能だった。エルフの秘術は精霊との交渉によって成立する。悪魔王の邪気が精霊を寄せつけないんだ。」
エルフの始祖は精霊だといわれている。通常の魔法とは異なるのだろう。
ビルシュが扉を開き、部屋の中に俺を誘った。
小さな部屋で、そこに保管されているのはよくわからない細々としたものばかりだ。
奥にある宝石ケースのような物を取り出したビルシュは、真ん中に設置されている小さなテーブルにそれらを置いて入室の時と同じように結界の解除を行った。
「これは誰にでも扱えるわけじゃないから、財宝としての価値はない。というよりも、価値をつけるのが難しいといった方が正しいかな。」
そう言いながら、ビルシュはケースを開けた。
中には、拳大と米粒ほどの大きさの魔石が収められている。
「魔石か?」
「そうだね。大きい方が邪気や悪意といった負の力を浄化する効果を持っている。もう一つはよくわからない。」
「わからない?」
「この2つは対になって保管されてきた。だけど、小さい方の魔石は記述や口伝の類いによる記録が一切ないんだ。アトレイク様ならご存知だろうけれど、そういう神託はなかったしね。」
「これを聖戦に使えということか?」
「大きい方は過去の聖戦でも用いられたそうだよ。聖水に浸すと浄化の気が漂うらしく、それを武具に定着させて使ったそうだ。気というのは固形物じゃないから、どうやって定着させるのかはわからないけれどね。」
クリスならそういった技法はいくらでも知っているだろう。
「聖水というのはどうやって手に入れたら良い?」
「それなら教会本部にある。浄化の魔石を沈めた甕で作っているんだ。病などに効能があるものじゃないけれど、一才の不純物がない清らかな水の事だよ。」
純水ということだろう。それを用いて武具に定着させる技法があれば、効果を発揮できるのかもしれない。




